朝になったら帰ってちょうだい

不透明の銀

じゃあ友達になってくれだなんて、間の抜けた台詞を頂戴したものだ。余りにも白々しかった為、頂戴してすぐにお断り申し上げた。 どう考えてもマトモでないし、恐らくは海賊だ。生活臭がない。自由気ままに悪事を働いている匂いがする。そういう男は腐る程見てきた。 今も昔もだ。だからすぐに分かる。マトモな男かそうじゃないか、その判断だけは間違わない。



「どうしてダメなんだよ」
「よくないからよ」
「?」
「あんたは、性質が悪そうだから」



そう言えば一瞬だけ目を丸くし笑う。指先で唇を撫でた。癖なのだろうか。



「だってあんた、見るからに退屈してるぜ」
「何事もない平和な生活を楽しんでるわ」
「そいつは嘘だ」



友達の申請を無下に断ったというのに、目の前の男は席を立つわけでもなく、新しい酒を頼んだ。一筋縄じゃいかないのだと思うのと同時に、興味がわく。いけない、これは馬鹿な真似だ。



「出身は?」
「南の方」
「ここには仕事で?」
「まぁね」
「恋人は?」
「質問してばかりね」



一つも答えずに笑う。



「友達になっちゃくれねェんだろう?」
「そうね」
「なら、次はねェって事だ。じゃあ、今、聞いとかねェと」



さり気なく掌を重ね、もっと距離が近づいた。とても馴れ馴れしい人見知りをしない目前の男はこちらの目をじっと見つめる。まだ名も知らない。



「俺の名はエース」
「…」
「退屈なのは今だけ」



今夜はもっと楽しくなるぜと男は言う。先程から一秒も離れない眼差しに射貫かれ、胸の鼓動と共に古い記憶が蘇る。 忘れたはずの、閉じ込めたはずの記憶。あの忌々しい街、ここよりももっと煌びやかなあの。



「なあ、
「!」



今夜は二人きりなんだぜとエースは呟き、指先を遊ばせた。まるで思い出を繰り返しているようでやはり動悸は治まらない。 伝えてもいない名を知っている理由なんて知りたくもない。飛び込んで来いと言わんばかりに広げられた大きな腕が罠だとは知っていた。



2016/1/25(オラオラ営業)

模倣坂心中