すれ違う2つの船のようよ

捕まった蝶の羽搏きが

いつかあの心臓に傷を付ける

肌を滑る炎をは熱く、どうやら一人前の殺意と対峙しているようだ。ギリギリのところで必死に避け、そんな攻防が小一時間ほど続いている。 賞金首であるあの男を狩るのであれば道理だが、これではまるで立場が逆だ。そもそもこちとらやる気のない海軍、いつだって除籍される覚悟は出来ている。が、殉職する覚悟は出来ていない。

この街にポートガスが潜んでいるという一報を受け、無理矢理連れて来られたが、ある事ない事騒ぎ立て、船着き場で大佐達と別れた。 あの時の判断ミスがここにきて響くとは。久方ぶりに後悔を募らせるが時すでに遅し。

疲労だけが募り、確かに動きは徐々に鈍くなっている。それにも拘らず炎は纏わりつく。 何となく逃げ続けるのも面倒になり足を止めた。街中から追われ、こんな外れまで来てしまったのだ。今更どうこうもない。



「…何で反撃してこねェんだ?」
「面倒だからよ」
「お前、海軍だろ?俺を捕まえねェのかい?」
「…そちらさんの目的は何なの?」
「暇つぶし」



ああ、だから海賊と呼ばれる生き物はどういうものかなんて、とっくに理解しているはずだ。 極端な話、海軍の中にも似たような輩は山ほどいるのだし、そのターゲットになる可能性だって考える。そんな事はガキの頃から知っていて、その理由は何だ。 何故、全身に染みつくほどの濃度でそんな事実を知っている。

背後から伸びる長い腕から身を捩る。日に焼けた白い砂利に倒れ込みそうになった。ポートガスが腕を掴み、 寸での所で倒れ込まずに済んだのだ。一気に冷え込み心拍数が跳ね上がった。ここにきて初めて振り返る。ポートガス・D・エース。 逆光で表情こそ見えないが、彼だ。大きな身体が世界さえ覆い尽くしそうで、掴まれた手首が焦げ付きそうだ。無意識に唾をのみ込んだ。



「お前、名前は」
「…」
「だんまりも悪かねェ。
 これから何されるか分かってるんならな。
 俺は、どっちでもいいが」
「この野郎…」
「お前があいつのアキレスってのは、織り込み済みだ」



恨むんならあいつを恨みなと、ポートガスは確かそんな戯言を呟いていたと思う。まるで白昼夢のようで現実味もなく、 あれよあれよという間に必要な個所だけ脱がされ挿れられ腹の上に出され終わった。









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!」
「…」
「手前、どこに行ってやがった!」



どこをどうして戻って来たかは覚えていない。只、船着き場に戻った時には既に日は落ちており、 血相を変えたスモーカーが駆け寄って来る姿が見えたが、そんなものはどうでもいい。力づくで開かれた身体は筋が悲鳴を上げているし、至る所に打ち身が出来ている。 それよりもまず不用意な汗を流したいし、不要な体液も同じだ。スモーカーの言葉に耳を貸さず、とりあえず船内の自室へ向かう。 頭の中はまだ整理出来ておらず、只々、事実を反芻するだけだ。この半日の間に何が起こり、何が変わった。いや、きっと。何も変わって、



「!!」



自室のドアに手をかけた刹那、強い衝撃に弾かれ室内に転がり込んだ。咄嗟に振り返れば血相を変えたスモーカーがおり、何故だが胃の底が騒めく。 ポートガスに裂かれたインナーに視線を落とし、彼が壁を殴るまでコンマ数秒。死にゆく慟哭が耳の奥で僅かに聞こえ、つい半日前の熱い昼下がりがフラッシュバックする。 何事も呟けない乾いた唇。目前に立ち尽くすスモーカーの姿。息も出来ないようなこの身体。あの熱い昼下がりの亡霊。



2016/8/14(海賊とは:海軍目線)
模倣坂心中