ここはどうだ楽園か?
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周到にも舞台は嵐
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戦いの最中に出くわすだなんて、まるで安いメロドラマのようだ。しくじり捕らえられた敵船の中、どう逃げ出そうか考えあぐねていた時だ。
突如船体が大きく揺れ、全身が壁に叩き付けられた。それに続く爆音、怒号。どうやら戦いが始まったらしいが、生憎ここは船底だ。音は聞こえど姿は見えぬ―――――
三度目の衝撃に全身が弄ばれた際、ようやく人影が見えた。とりあえず大人しく待ち、背後から飛びかかった。括られた手首を男の首に回し、グッと絞める。
倒れ込んだ男が隠し持っていたナイフで縄を切断し、数日振りに解放された手首を見つめた。薄汚い痣が刻印のように残り、腸が煮えくりかえったが、まあ良しとする。捕まった落ち度は自分にあるからだ。
ゆっくりと階段を上り、辺りの様子を伺う。どこぞの海賊に襲われたのだろうか。ざまあみろといったところか。
このどさくさに紛れてどうにか逃げ出したい所だが、どうしたものか。数日振りに迎えた外界は血生臭く喧騒に塗れている。そこら中が死体の山だ。
「…こいつは随分懐かしい顔だ」
「!」
「どこから出て来やがった」
声をかけられ顔を上げる。
「お前、こんなとこで何してる」
「ちょっと…しくじっちゃって」
「捕まってたのかい、
」
「まあ、そんなとこ」
辺りでは血潮が飛び交い、断末魔の悲鳴が木霊している。
「白ひげが狙うような海賊じゃないでしょ」
「あぁ」
「こんな真似」
「お前がいなけりゃやってねェ」
「…」
「この血潮はお前のもんだ」
「エース…」
お前の為の舞台なんだぜとエースは笑い、大声で何事かを叫んだ。彼の部下がズタボロになった男を引き摺り連れて来る。
を捕らえた男だ。辛うじて生きているような状態で目前に連れて来られたその男は、とっくに運命を知っていた。だから顔を上げない。
「どうすりゃいいかは、分かってるだろ。
」
「…」
「決めな」
「殺しはやらないって、知ってるわよね」
「知ってるさ」
「なら、どうして」
「そうも言ってられねェだろ」
「…」
「折角ここまでお膳立てしたんだ」
お前を逃がすわけにゃいかねェもんでね。
「エース…」
「逃げ道を防げってのは、マルコからの助言だ」
みんなお前に会いたがっているのだとエースは笑う。知らない場所で済まされる分からない会話は恐ろしい。昔、袂を分かつた男は納得していなかったのだ。
理解を得たのだと勘違いしていた。相手は只の海賊だ。未だ躊躇し続ける
の手を取ったエースは覚悟を迫り、手首の代償だと男を焼き尽くすのだ。
2017/4/13(白ひげリクルート)
模倣坂心中
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