さあ 何もかも奪ってよ

指に誂えた細い頸

耳障りの言い甘い言葉を耳側で囁く理由は知っている。別に誰かに限ったわけでもなく、こういうシチュエーション下、誰もがそうするだけだ。頬を腫らし酷く疲れた眼差しで煙草を吸っていた にシャンクスは声をかけた。久々だな、 。元気だったか?余りにも白々しく逆に笑えたが、言葉が出て来ない。つい先刻、エースと喧嘩をしたばかりだからだ。

もエースも手当たり次第に感情をぶつける。思いのままにだ。仲間たちは又かと相手にもしない有様だ。喧嘩のきっかけこそ忘れたが、 口論を重ねる内に過去の異性関係や様々な積み重ねが露呈し、取り返しがつかなくなった。エースの拳が目前にチラつき、 次の瞬間激しい衝撃が全身を襲う。本気ではなかったとしても拳は振りかざされた。簡単に吹き飛ばされた身体は壁に叩き付けられ、 一瞬だが呼吸が止まった。激しく咳き込む。それを皮切りに感情は途切れ、エースに飛びかかる。気づいた時には互いに血まみれで、見かねた仲間たちに引き剥がされている途中だった。



「…ぁ」
「目を閉じて、忘れちまいな、
「…」



血まみれの原因は、目の上の出血し易い箇所を傷つけていたからだ。 キレイに洗えば見た目ほど傷は深くなかった。少し頭を冷やしてこいと仲間に諭され、一旦、船を離れる事にする。船を出る前に未だ荒ぶるエースの姿を目の当たりにした。 エースも恐らくはこちらを見ていたはずだ。大きな声で、女を買って来いと叫んでいた気がする。互いに引けず、今更取り返せず、為す術さえなくここにいる。きっとエースはあのまま、 どこぞの女を部屋に招き入れ好き放題にしているはずだ。だから皆、 を船から離した。毎度そうだからだ。そうしてその事を知っている。だから、



「…どっちの味方も出来ねェが」
「…」
「そういうもんだ、俺たちは」



だから諦めろというつもりもないのだとシャンクスは言う。そう。だから、そういうものなのだ。そうして女を買い鬱憤を晴らすエースにしたってそうだし、甘言を囁き身を貪るシャンクスにしたってそうだ。 下半身から沸き上がる快楽に抗う必要もない。だから今、シャンクスが口にした言葉は真実なのだ。特に意味もなく身を貪るだけ。そこに身体があったから。 シャンクスと口付ければ、腫れた頬が痛む。それなのに心だけはそう痛まないのだと、そんな戯言は誰も信じないか。



2017/05/01(海賊とは:海賊視点)
模倣坂心中