ここには愛なんてないのだ

救い難く卑しい指

あーそりゃどうかな。いや、別に俺がどうこうってわけじゃねェが、そいつは得策とは呼べねェんじゃねェか。や、別にいいとか悪いとか、そういうわけじゃねェんだけど、 あーうーん、まァ…そうか。まあ、そうだってんなら、いや、お前がそうしたいってんなら―――――



「よぉ、エースじゃねェか」



こちらに気づいたシャンクスが軽く手を上げた。女を抱いた腕でだ。随分とご機嫌な様子で、片手には女を、 を抱いている。

確実に人のテリトリーであるこの島にわざわざ立ち寄る理由はないのだ。女を漁りたければ他に贔屓の盛り場は捨てる程あるのだし、 わざわざ面倒に巻き込まれる必要性が一切ない。この が理由になる以外に、エースがこの島に立ち寄る必要性はないのだ。だから躊躇した。

をここへ連れて来たらどうなるかだなんて、考えずとも分かる。馬鹿みたいな話だ。それを躊躇している自分自身にも腹が立つ。馬鹿だ。馬鹿が文字通り馬鹿な真似をしている。



「へェ、随分いい女ァ連れてるじゃねェか」
「だろ?可愛い女だろ」



だからってこのシャンクスが名前を覚える道理もなく、たった一言、 、それだけのメモリさえ記憶しない。自分が常日頃やっている所業をこうも客観的に見せつけられるとは夢にも思わず、しかもその夢は酷く最低な気持ちにさせるもので、ほとほと嫌になる。

なあ、エース。見てみろよ。どいつもこいつも、俺たちに抱かれたくて堪らねェって顔してやがる。

それもそのはず、ここはそういう場所だからだ。この大海原に名を馳せた赤髪のシャンクス。その名に心惹かれる女は星の数だ。黙っていても抱かれたい女が寄って来る。 もそんな女どもの一人だっただけだ。

別にこの女と何かをどうこうしようって腹じゃないが、知り合いが喰われるとなると不思議と居心地が悪く、挨拶もそこそこにその場を後にした。









■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■










ここは俺たちの遊び場だ。だからどこに誰がいるか、古参か新顔か。ざっと見渡せばすぐに把握できる。ここはそう言う場所で、それだけの場所だ。

だからエースが一人の女を連れてやって来た時には驚いた。こんな場所に女を連れて来ようものなら、どんな展開になるかは火を見るよりも明らかだからだ。

その女は生贄で、何か他に目的があるのだろうかと勘ぐっていれば(それにしたって、このエースがそんな真似をするとは到底思えやしねェし)女の視線に気づく。風体が変わり、まるで知らない女のようだが、確かに知った女だ。 。この女。

お前、今度はそいつを喰うつもりかよ。目線で問えば、赤い唇をニヤリと捻じ曲げ、耳障りな甘い声でこちらへすり寄って来るものだから、この性悪、今度は何を企んでやがる。耳側で囁いた。

花の匂いのする女は細い指先を頬に滑らせ隣に座り込む。元々いた女を押しのける形でだ。こいつはそういう女だと、俺ァ知ってるが。だけど、エース。お前はこいつの事、どこまで知ってんだ?

思惑が読めず、下手に口を開けない。憚る。他愛もない会話で場を繋いでいれば、居心地の悪そうなエースはそそくさと退散して行った。



「… 、こいつァ、どういう腹だ?」
「何よ…」



随分白けた事を言うのねと、腹の上の女は笑った。知った顔でだ。この女のこういう顔しか知らないから、エースの横で微笑んでいる様を見た時は何かの間違いかと、悪い夢かとさえ思った。よくない酒でも浴びたのかと。

気まずそうなエースとは対照的にまるでホームにでも戻ったかのような生き生きとした姿。今度の獲物はエースらしい。だからこちらへ触手を伸ばす。相も変わらずふざけたやり方の女だ。心を弄ぶ。



「燃えるようなハートの男よ」
「よーく知ってるぜ」
「もっともっと、まだ燃える」



燃え尽きる直前の一番熱いところが欲しいのだと は言う。昔から欲深な女だったが、更に強欲になるとは。エースとの燃えるような一夜の為にこの俺を利用しようってのか、お前。



「どっちが上手だろうな、お前と、エース」
「それに、あんた」
「!」
「こういう遊びは、シャンクス。得意よね」
「…どうだったか」
「二人、三人。心を弄ぶのは得意でしょ。
そもそも、あたしをこうしたのはあんたじゃない」
「一切覚えちゃいねェが、そうだったか?」



嘘だ。覚えている。気持ちのいい思い出は全て覚えている。



「まだまだ子供で、
世間も何も知らなかったあたしを無理矢理抱いた癖に」
「そうだっけか?」
「悪い酒も遊びも、男も全部あんたが教えてくれたのよね」



大丈夫大丈夫、何も心配いらねェ。だってお前、名前は何だった?あぁ、 、お前だって何の気もなしにここに来たってわけじゃねェだろ。何だ?震えて。緊張でもしてんのか?ほら、だったら飲めよ。すぐに気が楽になる。ほら、一気に飲め。なあ、随分楽になったろ?何も考えなくていいぜ、だって、どうせ明日の朝にはお前は俺の腕の中だ。

飲みなれないアルコールに侵された脳は、既に思考を放棄しており、シャンクスの言葉だけをぼんやりと覚えている。翌朝の記憶はやけに鮮明で、シャンクスの宣言通り身体ごと頂かれていた。安酒場の二階、連れ込み部屋のような薄汚い部屋だった。

目覚めた瞬間から次の手は繰り出され、疑問を抱く暇さえ与えなかったシャンクスは、矢継ぎ早に心を犯しだす。

何言ってんだ 、お前は俺が大好きなんだろう?俺だってお前を気に入ってる。だけど、愛してるって言うのはお前の役目だ。お前は俺から離れたくねェ、離れられねェ。俺が背を向けたらお前は言うんだよ、泣きながら。行かないでって。

だからといってこのシャンクスが真摯に を愛していたわけもなく、簡単な玩具にはすぐに飽きる。他の女を連れ込み、ふと魔が差す。

が一人止まる小部屋に女を連れ繰り出した。信じられないといった表情の に最後の魔法をかける。

嫌なら今すぐこの場を離れ、この俺の元から逃げ出しな。連れ込んだ女に咥えさせながらの一言だ。それが嫌なら、 。どうすりゃいいかは分かるよな。



「あんたのせいであたしの人生滅茶苦茶よ」
「そうか?俺がいなくても立派にやってるじゃねェか」
「見る分にはね」



だけど、やってもやっても疼きが取れない。全然満足出来ないのよ、普通のやり方じゃあ、もう。熱っぽい の言葉はシャンクスに降り注ぎ、触らずとも濡れた肉に埋もれゆく。

この女を作り上げた達成感は確かにあったが、手を離れればそれまでだ。後は勝手に膨れ上がる。汗で濡れた唇を指先でなぞれば、赤い赤い舌が絡みつき、否応なしに心が欲情した。



2017/08/27(新生エースの館スタート)
模倣坂心中