どうでもいい夢を見よう

一番遠い真実との情事

拘束される事はまずない。親父からの通達さえ受け取る事が出来れば、基本的に は何ものにも縛られず、自由気ままに暮らせる。どこぞの命知らずな海賊団と交戦する時にだけ、ひょっこりと顔を出し、好き放題に暴れ又、姿を消す。


所属はマルコ率いる一番隊だ。隊長であるマルコも何も言わない、というか、彼は彼で の存在に手を焼いているらしく、完全に放置といった有様だ。


血生臭さを好み、暴力を好む。トンと姿を見せなかった癖に、戦いとなると我先に飛び出し、男共を先導し渦中へ引きずり込む。 憎しみも悲しみも痛みも苦しみさえも欲し、滴ひとつも残さない。あの女の歩いた跡には文字通り何も残らないのだ。


だから一番隊に所属している。暴力装置としては逸品だ。



「…よぉ」
「遅いじゃない、エース」
「準備万端だねェ、お前は」



いつだって。 気だるげに訪れたエースはベッドに座った を見据え、少しだけ笑った。この女に誘われるのはいつだって急だ。やりたい時にやりたい場所に呼ぶ。断る理由もない為、のこのこと出向くのだが、 こうしていざ出向くと、当のバカ女は裸で待ち構えているのだから、やはりどうかしているのではないかと思うわけだ(そんな女とまんまと一戦交える己もどうかしているが)


冷えた内腿に指先を滑らせ、股の間に割り込む。決して目を逸らさない女に口付け、それから先は何となく身を任せる。


は攻められる事を嫌う。この女の生き様そのままだ。当然、エースとしては楽であり、好き勝手に身体を使われる事に不満はない。これはそういう遊びであり、 心は伴わないからだ。こちらはそれで一向に構わないのだが、少しだけ気にかかる事がある。



「…なぁ、
「…何?」



お前、マルコの事が好きなんだろ。



「…えぇ?」
「何でマルコとヤんねェんだよ」
「…」
「好きなヤツとはヤりたくねェってのか?」
「そんなんじゃないんだけど…」



そんなに好きじゃない相手とヤる方が気持ちいいのよね。 はそう呟き、エースに跨った。











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幾度か精液を放出し、ベッドに大の字となれば余韻を楽しむ間もない はシャワーへ向かう。完全なる性欲の発散、それ以上でも以下でもない。


我ながらセックスの最中に下らない質問をしてしまったものだ。何となく、酷いねぇ、等と答えつつ行為を続けたが、正直なところ気持ちは分かる。 お手軽だからだ。好きに出来るし、気取る必要もない。後ろから犯される方が好きだとか、触る場所が違うだとか、そんな事もどうでもいい相手の方が言い易い。 性的な、あの女が女性という性を思いのまま操る場面にマルコは存在しないのだ。それが酷く薄汚い姿だと自覚している。


神よりも自由で悪魔よりも気まま。親父に拾われた経緯も正直どうかしていて、この女は最初、親父でさえもそんな負のサイクルに組み込もうと企んだらしい。結果、親父がその度胸を気に入り、今に至る。


若かりしあの頃よりも多少は成長したのだろうかと訝しむが、相も変わらずこんな真似を繰り返しているわけで、望み薄だ。


マルコはマルコで、 の事が実際、苦手らしく(まあ、あんな女が部下だなんて罰ゲームもいいとこだが)完全に放置を決め込んでいる。稀に生じる との接触も言葉少な目に済ませる程だ。


どうやらショックを受けたであろう は、そのままエースを誘い船を降りる。流石にそれが数回続けば、いかに興味のないエースだって気づく。偶々、エースが不在だった時にはサッチを誘ったらしい。



「お前、もう出るのかい」
「用事があるのよ」
「マルコに言っとく」
「…」
「そんな顔すんなよ」



冗談だろ。そう笑えば、振り返る事なく部屋を出て行く。わざとらしく歪めた口の端を戻せば酷く白けたもので、 と寝ている事をマルコに耳打ちしてやろうかだなんて、下らない仕返しを思いついたが―――――


やめた。



2017/10/07(どうしようもない若人たち)
模倣坂心中