今は地獄に向かっているよ

繰言おとし

ドフラミンゴはこちらの思惑をある程度把握していたように思う。エースと離れ、これから先どうしたものかと海原を彷徨っている間に、自身に懸賞金がかけられている事実を知った。賭け主は世界政府。レジスタンスと肩を並べ、知らぬ間に大犯罪者の仲間入りだ。こちらとしてはまるで身に覚えがない。世界政府に対し不信感を抱いたのはそれが最初だった。



待てど暮らせども、彼のジェノサイドが報道される事はなく、不審に思ったがあの島へ戻れば、そこには既に島の面影ひとつなく、全てはなかった事にされたのだと理解した。の罪状は民族淘汰。自らの手で自らの種族を絶滅させたと、あの惨劇の責任を全て押し付けられた形だ。怒りで身が震えた。




世界政府はどうしてもを殺したいようだが、こちらも見す見す殺されるわけにはいかない。掻い潜りながらドフラミンゴに近づいた。彼はの事を知っていたらしく、こいつァ珍しいお客さんだと笑った。彼の仕事の手伝いをしながらどうにか海軍本部に近づく事が出来ないかと考えあぐねる。七武海の会合の際、素知らぬ顔をしてついて行けば案外容易く侵入する事が出来た。



海軍本部ないの書庫へ入り込み、そこでジェノサイドを把握していた事実を知る。海軍本部はその一部始終を把握し、近海で見守っていたようだ。何故か。



「…あんた達には気の毒な話だ」
「…」
「世界はあんたらを見捨てた。悪かったね」



そうしてここは海軍本部内の薄暗い一室だ。両腕を拘束されたは床に転がされている。書庫から出た瞬間、いよぉ、だなんて挨拶をするクザンがいて詰んだ。クザンはを捕らえ、そのまま近くの部屋へ入った。両腕は完全に凍り付きびくともしない。このままでは壊死してしまうだろう。



「困ったねぇ、あんたをボルサリーノさん達に見せるわけにもいかないし、だからってこのままあいつのとこに帰すってのも癪だ」



クザンはやれやれといった様子で話をした。の一族は歴史が長い古い種族で、世界政府にとって都合の悪い事を知っている。それを恐れ世界政府は虐殺を黙認した。双方に最も都合のいいように事が進むからだ。無論ドフラミンゴもその事を知っている。だから、ドフラミンゴの元へ返す事は出来ない。みすみす利用させるわけにもいかないという話だ。この世界に私はたったの一人ぼっちで、既に居場所すらない。



「自由にはなれないって事なの」
「自由を与えたってロクな事しないでしょ、あんたは」



海賊とつるんでる事も知ってるよ。考えあぐねているといった様子でクザンはため息を吐く。1人残らず殺せとの命を受けている。彼の一族は淘汰せよとのご命令だ。秩序を守るためにというお題目で、一方からの正義であるのかも知れない。だけれど。目前の女は美しく、儚い。



「あんた、俺のために働きなよ」
「…はっ?」
「ある程度の自由は保証してやる。恐らく、それが1番いい選択肢だ」



ふざけるなと呟くを背に、まぁ、その気になったら言いなよ。それまではずっとそのままだ。立ち上がったクザンはそう言い残しドアを閉める。光のないこの部屋は果て無く暗く、鍵の閉められる音が室内に響き渡った。エースの事が脳裏を過ったが、今更むしが良すぎるなと自嘲する。両腕の感覚は既に麻痺していた。



2019/04/14(わたしの消えた世界)
模倣坂心中