ギイ、と耳に不快な音を鳴らしドアを開ける。
もうじき朝焼けが海原を染め始めるだろう。
こんな時間まで仕事が続くのかと呆れ
それでも自分はまだマシだろうと考え直した。
珍しく外回り(言い方に御幣はあるのかも知れないが)の仕事なのだ。
それはまあ、楽しいではないか。

青キジは灯りを付けず室内へ進む。
灯りを付ければ彼女が目覚めてしまうからだ。


「・・・やれやれ」


リビングのソファーに薄手の毛布一枚に包まり
寝入っているの姿を目にした青キジは独り言ちる。
ジャケットを脱ぎ軽く頭をかきもう一度ソファーに視線を向けた。
待っていたのだろう。自分が帰るのを。毎度だ。
を起こさないようゆっくりと抱きかかえベッドへ向かう。
風邪をひくでしょうと青キジが言えども
が青キジを待たずにベッドで寝ていた例はない。
だから青キジももう言わなくなった。

静かに下ろし自身もベッドに横たわる。
が一度寝返りを打った。
こうやって一日一日を消費さえしていければそれだけで構わないのだ。
にとっては最善になる。は青キジの罪だ。













「いい加減、諦めてくれない?」
「そりゃ、無理だ」
「あたし何もしてないじゃない」


繁華街と呼ばれる場所を巣窟としているは余り良くない女だった。
外見云々よりも中身の問題だ。原因も知っていた。
あの女はいいように泳がされているのだ。
彼女の背後で糸を引いているのは名の知れた海賊であり、
幾ら海軍といえども容易く触れられる部分ではない。

白状してしまえば惹かれたのだ。それも酷く。
悪い毒にあてられたようなものだろう。
一瞬で毒は回り思考と理性を麻痺させる。させた。


「あんた、あたしに惚れたんでしょ」
「恥ずかしげもなく」
「あんただけじゃないもの」
「・・・困ったねぇ」


昔から嫌なものや嫌な場所に運悪く遭遇してしまうのだ。
だからが泣いている姿や苦しんでいる姿も否応なしに目にしてしまう。
馬鹿な女だと思ったまでだ。
その男の為に手を汚し身体を汚し生きていく。
余計な罪を背負い泣きながら生きていく。
馬鹿だ。は馬鹿な、それでいて純粋な女だ。欲望に、感情に。


「あたしのドコがいいって言うのよ、あんた」


掠れた眼差しでポツリと呟いたを目の当たりにし堕ちた、
だなんて無粋な思いを馳せたのは事実だ。
待てば何れ堕ちる。手に入れれば、もう逃がさないさ。













そのままを奪い彼女の命を保障する為に身を隠させ側に置いた。
犠牲で成り立つ方程式、よくある話だ。
海軍の中に隠してしまえば流石に手を出す事は出来ない。
そうして彼女―は自分の元から離れられなくなった。
縋ればいい。自分さえいなければ生きてはいけないと思えばいい。
その理由がたった一つではなくとも。


「・・・帰ったのね」
「寝な、まだまだ朝じゃあないよ」
「あんたがもう、戻って来ないのかと思ったわ」
「何、言ってんの」


柄にもない。そう笑い腕を伸ばす。


これも初っぽいんですが悪青キジ(何だそれ)です。
2007/3/18