何もかも全てを知っているような素振りで
それこそ諭そうとする青キジに対し僅かながら苛立ちを覚えたわけだ。
それは単に羨んでいたからかも知れないし、まあ僻んでいたからかも知れない。
知ったかぶりをしていると思えたわけではなく生きてきた経緯、
得た糧の違いなのだろうと分かってはいる。
それでも青キジの僅かな傲慢を知っているものだから納得出来かねているのだろう。


は苛立ちを飲み下す。ぬるい水と一緒に。
そこは間違っていると口に出す必要はない。
それにしてもどうしてこんなにも生臭いのだろうか。
水の所為か、身体の所為か。病んでいるのかも知れない。頭、身体。全てが。
青キジと出会ってから幾年かが過ぎはしたものの
喧嘩の理由も慟哭の原因も何一つ変化せず、
なんて変わり映えのしない人生なのだろうと思えた。


「・・・何。まだ起きてたの」
「遅くない?」
「仕事だよ」
「知ってるけど」
「冷たいミルクを」
「はい」


温かいミルクが嫌いだという幼い嗜好や
制服を脱ぎもせずそのままソファーにもたれる姿だとか。まあ全部だ。
何曜日に会いに行く、だなんて決めたところで会いたい時に会いに出かける。
それと同じ。決めたところで意味がない。


今、現に青キジが目前に存在する現状でありふれた結末を定義する
所詮選択肢は二つだ。
青キジに成ればもう少し明確な答えを弾き出せるのだろう。
しかしはどう足掻いても青キジにはなれない。
だから答えは輪郭だけを浮かび上がらせた曖昧なものになる。


「ちょっと」
「―」
「青キジ」
「・・・」


彼の手からもう少しで転がり落ちそうなグラスを寸でのところで掴む。
いつの間にか眠りに落ちた青キジは朝まで起きないのだろうし、
自身、朝までこの部屋にはいないだろう。


青キジの身体に毛布をかけ照明を落としたは部屋を出る。
一歩出た瞬間タバコに火をつけ深く吸い込んだ。
ドア一枚隔てぼんやりと目を開いた青キジは毛布に顔を埋める。


久々の青キジ。倦怠期・・・ではないと思う。
案外可愛い一面を持った彼を書きたかったのか。
2007/4/29