ジリジリと焼け付くようだ。何が。全てが。
足の裏、喉、目。追い詰めるからだ。それが仕事だから、糧だから。
寸でのところでようやく逃げ出す―分からない、逃がしているのかも知れない。
本気で挑めば容易く終わると分かっているのに、
それなのに逃がしているという事はそうしているのだ。


最初出くわしたのは踏み込んだ海賊のアジト、海を離れ豪遊する奴らの桃源郷の中だった。
奪った財宝が所狭しと並べられたそこにはいた。
いた、というよりも置かれていた。
両手を錠で囚われたはじっとりとした視線を向けていた。
口元が赤く爛れ腕や足に無造作に包帯が巻かれていた辺り、何かしらの暴行を受けたのだろう。
それを解こうと近づけば妙な気配を感じる。
ああ、能力者かと思い歩みを止めた。一定の距離を保ちを観察する。
は口を開かずこちらを見るだけだった。


余り上品とはいえない有様に違いなかった。それなのにだ。
荒んだ有様の彼女が嫌に色気を増して見えた。
元々の造形ではないのだろう、存在だ。嬲られる。


「・・・あんたは、いい思いをしちゃいないだろう」
「誰もいい思いなんてさせちゃくれないもんでね」
「どこに言っても同じだ、あんたは」


海賊達を一網打尽にした海軍はの身柄を拘束し一旦海軍へと連行した。
素性が分からなかったからだ。
その辺りにも生まれ持ったの哀しさが関係している。
恐らく、それがでなければ即座に解放されていただろうから。
連行される間もは一言も口を開かず、やはり湿った眼差しを向けていた。


「何もしちゃいないのに、どうしてあんたはあたしを追うの」
「さぁ」


それが分かりゃあ苦労はしねぇんだが。
思わず漏れた本音はに聞こえていない。
どの道には死ぬまで分からない事だ。


「あんたの目的は何よ」
「そんなもんは―」
「何なのよ」


どうしてあたしを追うの。
低く呻いたを見下ろしながら
まったく別の事を考えた青キジはようやく何だろう、そう思う。
この女の負の財産に惹かれているだけなのだろうか、自分も。
追い詰めればやはり切羽詰るの顔を見たいだけなのだろうか。捕らえない以上。
そうだ。たとえばその首に手を掛けたなら、 はどんな顔をするのか。
未だ触れた事はない、指先もだ。


「俺はあんたが」


その先に続く言葉を見つける事が出来ず黙り込んだ青キジは
これこそ下らない妄想劇だと笑う。
迷惑な真似ばかりを繰り返す。
恐らくこれまでの周囲にいた輩と同じだ。
それでいて自身に気づかないは必死に逃げ惑う、
ああ。それが恐らく堪らないだけだ。心を動かす。揺れる。感情が。


「―」


手を伸ばせば届く。それでも伸ばさない。捕らえない。
の心は壊れるのだろうか。いや、必死に瀬戸際で持ちこたえる。
分かっている、だから。


「早く逃げな、


そう吐き捨て又追いかける。


どこに青キジの名を入れるかスゲエ迷ったよ。
というか、変態のようになってしまった。
ごめん、青キジ。
2007/7/9