どうしてそんな腕で抱くのと呟いた青キジは少々疲れていたのだろう。恐らくは。
何を言っているのか分かっていなかったようだ、自分では。
それでも答えなかった理由は丁度いい言葉が見つからなかったからだ。
余り豊かではない言葉の選択肢がそれを邪魔した。
仕事を抜け出し(しかしそれは特別な事ではなく、単に日常と化している)
そうしての元に訪れた青キジはやはり疲れているのだ。
大きな身体を横たえ目を閉じている。
「明日は何時に帰るの?」
「そんなに追い出したいかい、」
「置いて行かれるわよ」
「そんな事は、どうでもいいじゃないの」
「捜しに来られても迷惑だわ」
「見つからないよ、ここは」
俺しか見つける事は出来ないでしょうよ。
青キジはそう言い又しても疲れた様子で目を開ける。
そういえばこの男がここへ顔を出す時は
いつだって疲れ切っているのだと思った。
決して癒されはしないのだろうに。
「何か食べるの、あんた」
「何がある?」
「・・・何か頼むわよ。何がいい?」
「相変わらず何もねぇ部屋だ」
お前しか、お前しかない。ここには。
ピザを頼む事にしたは青キジの返事を待たずダイヤルを回す。
それにしても青キジが来てからというもの
部屋の中の空気が嫌に淀んでしまったようで息が苦しい。
窓を開けようかどうしようか。
今日は確か街でカーニバルが行われているはずだ。
うるさいだろうか。
「・・・」
そんな事を考えながら無造作に脱ぎ捨てられた青キジの上着に手をかける。
正義の二文字がでかでかと綴られたあれだ。
何の事はない、単にハンガーにかけようと思っただけだ。
「・・・」
正義の二文字を覆い隠すように黒い染みがこびりついていた。
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これはもう取れないだろうと思いながらぼんやりと見つめる。
青キジはどうやら寝てしまったようで微かな寝息が聞こえていた。
正義を隠した黒い染みは誰かしらの返り血なのだろう。
正義の元に命を奪い、そうして吹き出た血液は黒く固まり正義を隠す。
それにしても珍しい事ではあった。
青キジが返り血を浴びる事はそうないだろう。
何とやりあったのか。ピザが届くまで後十分少々。
恐らくピザ屋の鳴らすチャイムにより青キジは目覚める。
元々眠りの浅い男だ。
「・・・正義、ねぇ」
どのものさしで図ればそれは理解出来るのだろう。
きっと青キジは理解していないはずだ。海軍の正義を。
だから疲れここへ来る。戻らない。
誰かの命を奪えば自ずと恨みを買う。
恨みは目にこそ見えないが強大な力を持ち果てなくついて回るではないか。
それでも青キジ自身に罪はなく、だからきっと迷う。
それを少しでも赦そうと伸ばしたの腕は青キジを抱く。
それが母性と咎罪のはじまり。誰も望んではいないだろう。
何故か続けて青キジ。
というか更新が久々でスイマセン。
2007/8/4