何をやっていやがるんだ。
そう呟き身を起す。そうは言えども悪い気はしていないのだ。
美しく流れる髪、透き通った肌。
全てにおいて不満が出て来る要素さえないではないか。


夢と現実の合間を揺ら揺らと揺れている状態のままを見ている。
床の上にペタリと座り込んだはこちらをまるで見ておらず、何を見ているのだろう。
格子の向こう側に覗いている月でも見ているのだろうか。
ゆっくりと視線をそちらに移せば青白かったはずの月が紅く燃えている。
アラバスタにあんな月が昇ったのだろうか。
脳裏を過ぎるふとした疑問は疑われる事なく消えた。


の指先には黒いクレヨンが握られており、
彼女はそれで床に何かを書いているようだ。
大理石ではあるが何も言わない。何かを言うべき必要がない。
は何を書いているのだろう。


それにしても先ほどから上手く体が動かないのだ。
四肢に重りが付けられているような感覚に苛まれる。
こんな経験をした例がないクロコダイルは億劫そうに息を吐き出す。
は何かを書いている。


「―


確かに名を呼んだはずだ。
それでもは振り返らない。返事をしない。
もう一度呼ぶ。


「おい」


ゆっくりと上げられるの顔。振り向く彼女。その顔。


紳士は美しく手折れるような首がお好き


だったわよね、クロコダイル。
の顔がぼやけてよく見えない。
それなのに彼女の唇は赤々と滴り落ちそうだ。
口角は上がり、どうやら笑っているのだろうと予測する。何故。


「手前・・・一体何を」
「あたしの首を折りたいでしょう」


その刹那一気に泡立つ肌、強引に意識が引き戻される感覚。
ああ、そうだ。ここは幽閉されている牢獄だ。
その事に気づき思わず笑った。
アラバスタの一件後クロコダイルは姿を消したがはどうなのだろう。
まさか彼女が自分を待っているとは思わないが。
僅かばかりの格子からは夢の中で見た紅い月が覗いている。

何だか久々のクロコダイルですが。
一言で言うのならば可哀想。
2007/8/11