唇が赤い。思ってたよりも赤い。それから覗く舌が尚赤く息を飲む。
まあ、ここまで執拗に(恐らくこれは視姦にも似ている)
を見る必要はなかったわけで、
彼女としてもここまで見られる必要性はどこにもないと思っていた事だろう。
酷く嫌な視線を投げつけられようやく気づくのだから仕方がない。
見てしまうのだ。
彼女の顔、首、胸から腰。足。仕草、何をするの。


「・・・何見てるのよエネル」
「お前だ」
「いや、何で見てるのよ」
「不都合か?」


そんなわけがないだろう。
ぼんやりと不機嫌そうな眼差しでこちらをずっと見ているエネルにほとほと嫌気が差す。
そもそもこの船は行き先さえ分からないでいるというのに、
何故ここまで何もせずにいられるのだろう。
そう思えども何をしても無駄だという事にも気づいているは、
ああだからか、そう思い溜息を吐き出した。
別に戻りたいと思っているわけではない。
何事もない普遍な世界に、生活に戻りたいわけではない。


「ねえ、どこに行くの。この船は」
「知らぬ」
「はい?」
「着くべきところに着く」
「それは、答なの?エネル」
「不満か?」


ようやく傷も癒えたらしいエネルは
(最初乗り合わせて一週間ほどはほとんど寝たきりだった癖に)
どっかりと座り込みワインなんてものを飲んでいる。
ほろ酔い気分で彼はいい気分なのだろう。


「こっちへ来い、
「無理」
「・・・」
「ちょっと!雷落とすの止めてよね」
「・・・何を」
「あんた・・・図星でしょ」


舵から手を離しエネルの元へ向かう。
舵を持つ必要はないこの船で何となく手を離せなかったのは余りに危うかったからだ。
自分の立ち位置が。どこに立っているのか分からなくなる。
だからといってエネルに引き寄せられるように(それこそ磁石のようにだ)
立ち位置をずらすのはよくないと思えた。歪んでしまう。


「今宵は宴にしよう」
「あんたと、二人で?」
「不満か?」
「・・・」


月が大きくなっている。とてもとても大きくなっている。


「何が目的なの?カミサマ」
「新天地で国を創ろう」
「あんた・・・懲りない男ね」
「男ではない、私は神だ」
「あっそう」


あたし、男にしか興味がないんだけど。
笑いながらがそう言えば
眉間に皺を寄せたエネルがこちらを一瞥し唐突に足首を掴む。
勢いのままぐいと引かれ甲板に倒れ込みかける。


「駆け引きをする女は嫌いでね」
「あたしも暴力的な男は嫌いよ」
「・・・」


馬鹿じゃないの。
そう呟き笑う。詰まらなさそうに唇を尖らせたエネルを見ながら。
寝転んだまま生ハムを摘み口へ運んだ、
青空しかうつさない目にエネルの顔が入り込み妙な声を出してしまう。
決して可愛らしくはない声だ。


「・・・何よ」
「何だろう」
「いいの、カミサマがそんな事して」
「・・・今は、いいのだ」
「えぇー」


かみさまの留守番中にそんな事したら怒られちゃうわよ。
舌を出しそう言えば眉間にチョップを喰らわされた。

久々にエネル。
前回の続きです。
2007/9/30