吐く息がそのまま凍り落ちそうで、出来る限り少ない呼吸を試みた。
サイズの大きなファーのついたジャケットを羽織り離れた星を見つめる。
黒くうねった波は恐ろしさばかりを増す。
夏場に訪れればよかったと笑った。
そういえばクソ暑い夏場には砂漠地帯に滞在していた、
サボテンが乱立する場所だ。嫌になるくらい日に焼けた。
それにしても今日は寒い、冷えすぎる。
まるで、お前のよう。


「・・・寒ぃな、今日は」
「あいてたの?部屋」
「いいや」


今日は野宿だな。そう言い笑う。


「こんな中で野宿?死んじゃうわよ」


波が足元を濡らした。
吸い込まれかねないと思える、死んだ輩が我よ我よと手を伸ばす。
見えはしないそれを蹴り上げた。
どうやらこの港町には宿が少ないらしい。
エースが宿を探しているがどこもかしこも満室だった。
(若しくはよそ者を泊まらせたくないのだ)


「じゃあ、ここで死んじまおうか」


一緒に。
エースの指先が首筋に触れた。ぞっとする程冷たい。
まるで、お前のよう。


「あんたが冷えてるなんて、珍しいわね」
「あぁ、そうだな」
「寒気がする」


この男が目指すまでの旅路だ、長いのか短いのか―
その辺りはよく分からない。
今までやってこれたのだからそう短くはなかったのだろう。
明日が確実にあるとは限らないのだ。
自分にしても、この男にしても。


「いっその事、勝手に上がっちまうか」
「又、撃たれるわよ」
「その時はそりゃあ」


又同じ事を繰り返すさ。
しゃがみ込んでいたエースがゆっくりと立ち上がった。
この海同様黒ずんだ眼差しでだ。
確認はしない、もう見る事はない。
もうあの目は見ない。そう決めた。


「あたしは御免だわ」
「お前は、見てりゃあいい」


幼すぎる思慕に耽る―――――


「・・・何でもいいから、早くして」
「了解、お姫様」
「何よ、それ」


嫌味なわけ。
の言葉を聞くまでもなくエースは姿を消す。
やはり振り返らないはうねる波間を見ていた。

エース。
早く姿を確認したいよ・・・
2007/12/20