何故だか不思議と背中しか向けなかったローは
いつだって同じ場所、窓際に置いてあるロッキングチェアーに揺られていた。
酷く気分屋なあの男は機嫌のいい時にしか口を開かない。
雨の日はどうやら神経が痛むらしく室内の空気が淀む程無口だった。
この大海原が一望出来る部屋からあの椅子に座り見つめるだけ。
それが―――――嫌だった。


何れいなくなる癖に、初めにそう思い、
この部屋に自分がいるからローは近づいて来たのではないか、そう考えるからだ。
我ながら目出度い頭だと思う。


古い記憶が順繰りになくなってしまう。
新しい記憶が上書きするのだ。
こうなってしまったのは何時からか。
あの男がの仲間、家族、そして恋人を殺してからか。


足止めを喰っていたが返り血さえ拭わずに駆けつけた時、
遅かったと後悔したあの時にローが吐いた言葉がそうさせた。
因果応報だな。
の到着を待っていたのだろう。
呟いたローは足元に蹲る男に向け一発の弾を撃ち込んだ。
散々いたぶられていたらしい男はこめかみを撃ち抜かれようやく死ぬ事が出来た。
足元が汚れたと不機嫌そうに呟いたローがその死体を蹴り上げ
赤黒く破裂した男の顔がこちらを向いた時、ようやくその身元が判ったわけで、
は雑音を全て失くしたのだ。


燃え上がる小さな町と自らの海賊船。
揺ら揺らとたなびく海賊旗だけがやけにはっきりと見えていた。
お前もハナから大人しく言う事、聞いてりゃよかったのにな。
ローが言う。笑いもせず怒りもせず只淡々と。
周囲には戦い開けの男達が立っているし足元には敗者達の残骸が転がっている。


因果応報―――――
そう。その言葉が酷くはっきりと残っていた。
まさしくその通りなのだ。
初めて見る光景だとしてもこれまで幾度となく見下ろして来たのだ。別の角度から。
ここまで耐え難い感情とは知らずに。
同じ事を繰り返し全てを失った。
こんな、たった一人の男の為に―――――


「お前が妙な意地、張らなきゃよかったんだぜ」
「ロー」
「そうすりゃ、ちょっとした火遊びですんだ」


お前が、こうしたんだ。
ゆっくりと呟いたローを見つめた。
この、大嘘吐きが。
お前が―――――
お前はハナからこのつもりだっただろうが。


ファーストコンタクトは和解。
ロー側からの交渉内容は完全なる買収で、口調は控えめに傲慢。
が断ると知っての行動だったと思う。
次にローが自ら訪れるようになった。
時には花を持ち、時には財宝を持ち。
仲間の前、家族の前、恋人の前、所構わずだ。


「なァ、
「…」
「どうするんだ?」


これから先。お前一人で。
何もかもなくなった。生まれて初めて。
感情はまったく定まっていないが涙だけが止めどなく流れ落ち、
これは悔しさに似ているのだろうと思った。ぼんやりと。
そのまま自害しようとすれば寸でのところでローが腕を掴み顔を覗き込む。
死ぬ事さえ許されなかったのだ。力なく笑えばもう全てが嫌になった。














その後は簡単な話だ。
抜け殻になったを連れ、ローはこの家に来た。
逃げ出さないように手枷と首輪をつけ。
自ら考える力さえ放棄したは言われるがまま動き生きた。


島を離れる度にローはを連れた。
同じ条件の家に住ませる。大海原が見える部屋を与える。
繰り返し過ぎて記憶が曖昧になる程に。
あれだけ憎んでいた事実を忘れかけてしまう程に。
子宮に飼った蛇はこうも劣悪な思いを抱かせた。


「嵐が来るな」
「嵐?」
「海が、濁ってやがる」


相変わらずこちらに背を向けているローがポツリと呟く。
こんな男もこんな家もそして自分も、
全て纏めて嵐に飲み込まれればいいのにと思った。

初ロー(笑えない)
これから彼の人となりが露になっていくに連れ、
色々と修正が入る事請け合いです。
コンセプトはドフラミンゴ以上、シャンクス以下の傲慢さ。
2008/6/6