なぁ、お前は知らないだろうな。
真っ暗な部屋が好きだ。鼻先さえ見えない暗闇の中一人じっと目を開けている。
その上静寂も大好きだ。耳鳴りがするほどの静けさが。
血生臭い実生活を忘れられる唯一の手段だ。


徐々に己の呼吸音が響き渡り頭の中がクリアになる。
それからようやく考えるのだ。
この、子供のような心の内について。
子供の頃がどうだったかはほとんど記憶にない。
それでも手の打ち様がない程幼稚な考えを消す事が出来ないのだ。


世界が違うあの女をどうにか手に入れたい。
力ずくで手に入れる事は容易だ。砂糖を溶かすよりも。
しかしそれではいけない、そうではない。
そんな事を望んでいるわけではないのだ。
全てが欲しい。身も心も、それでいてが自ら赴かなくてはならない。
特に不自由した事はない分やり方に疎く困っている。


あの、ローが刺し殺した男越しに立っていたの姿を。
呆気に取られ呆然と、それでも反射的にこちらへ視線を寄越したあの姿。
近づこうとすれば声を上げる事なく視線だけが動いた。
怯えていたのだろうか。普通ならばそうだろう。
目の前で人が殺されているのだから。


あの日以来はローの元を訪れなくなった。当然の対応だ。
時折顔を合わせる事はあっても笑顔ではいられない。
微かに強張った表情のまま視線を落とすだけ。
それが悲しくて悲しくて辛くて。単に会いたいと願う。


だから今ここには寝ているのだ。
まだ覚醒していないから薄い呼吸を繰り返している。
どうせ先の見えない不確かな人生なのだ、貪り合う他ないだろう。
己の興味、楽しみ、意思のみを追求し生きているのだ。
それでもいざ行動を起した今先に進めないでいる。
彼女が目を覚ました時、まず何を言おうか。
それを考え一時間が経過している。


―――――ローは一体何をしている人なの?
が初めて問いかけてきた疑問だ。
あの時自分は何と答えただろう。
そうしてはどんな反応を―――――


「…ん」


自分以外の声を聞きつけローが顔を上げた。
顔が熱くなり動機が激しくなった。が目覚めたから。


「何…?」


ゆっくりと立ち上がり近づいた。
こんな興奮はそうそう味わえないだろう。














「…誰?」
「俺だ」
「ロー…」
「…


堪えきれない感情をどれだけ押さえつけていたのだろう。
そうして今日それをぶつける。隠す事なく全てをありのままに。
が受け止めきれる道理はないと知りながら。
覆い被さればが悲鳴を上げた。初めて。
やめて、やめて。やめて、ロー。誰か。
どうせ言っても伝わらないのだ。
お前の事を心の底から愛しているからこその行為だと。
伝えても伝えなくてもどの道は傷つく。


「どうして」
「どうして…」


どうしてねェ。
反芻し笑う。面白くて仕方がない。
随分昔にお前はイカレていると言われた事がある。
あれは一体誰に言われたのか。そうして何故言われたのか。
まったく記憶にないというところを見れば大した出来事ではなかったのだ。
それでも何故だか今それを思い出す。その理由も分からないまま。
の目がこちらを見ている。
大きく見開かれたまま微動だにせず。
これから先自身に降りかかる事象をはっきりと理解しているのだ。彼女は。


「嫌」


胸元を掴んだ指先に僅かな力を込めそのまま引き千切る。
視覚、聴覚、この二つが嫌にロー自身を興奮させ止まない。
ああ、そうか。俺は。
を語るにはまだ

前回に引き続きローです。
まだ本誌にて大した台詞一つ言っちゃいないというのに。
個人的に若い設定なんですが、これで案外いってたら
私は本当にどうしたらいいのやら…
2008/6/9