皮膚の境界を突き破る切っ先

  この部屋に監禁されてもうどれくらいの歳月が経ったのだろう。随分と長いような気もするし、そんなに経っていないような気もする。

この部屋の窓は年中閉められているし、遮光カーテンが開く事もない。連れて来られてからというもの、正気に戻るヒマがない程、薬を投与されている。意識は終始朦朧としており、最近では記憶もあやふやだ。

誰が、何故、何の為に。

そんな状態なのにこの身体は一人の男に管理されている。男の目的だけが分からないのだ。

この部屋に来て、すぐに衣類は剥がれ首輪をつけられた。逃走防止なのだろう、首輪は大ぶりな鎖で配管に繋がれており外す事は不可能だ。下着さえも着用を許されず、すぐに犯されるのかと思いきや、こちらに手を出しては来ない。如何わしい薬を投与し、完全にラリっている間は分からないが、その間はこちらも意識がないのでとりあえず不問としている。

この得体の知れない薬はどうやらセックスドラッグと呼ばれるものの一つらしい。こちらの性欲を激しく昂らせる。ある程度身体が薬に慣れ親しんだ段階で、男の調教はランクを上げた。

の身動きを完全に封じ、乳首やクリトリスにローターを貼り付け弱の刺激を与える。その様子を男はじっと見ていたり、撮影をしていたりと様々だ。だけれど、ようやくイけそうになったその瞬間に止める。要は寸止めというやつだ。そんな状態を五日ほど繰り返されている。

イきそびれたに薬を打ち、性感が増したは自らで疼きを収めようと指先を埋めるのだが、まったく物足りない。そんなある日だ。あれは前触れもなく訪れた。


「宇佐美、こいつ借りるぜ」
「あれ?尾形?」
「おい、さっさと咥えろ」


朦朧とする意識の中、突如髪を掴まれる。ふわりと知った匂いが鼻腔を擽り、全身に悪寒が走った。この匂いを知っている。
この匂いは―――――


「ちょっとちょっと?!俺のシナリオがあるんだけど」
「うるせーよ」
「…尾形」


名を呟くや否や、グイ、と半立ち状態の性器を押し付けられる。そのまま無理矢理口の中に突っ込まれた。遠慮もなしに喉の奥の方まで突っ込まれ、激しい吐き気に襲われる。

この男のつけている香水が嫌いだ。どちらが先にかは分からない。そもそもがこんな有様になっている一番の原因はこの尾形にある。

元は普通の大学生だったのだが、友人に誘われ出向いたとあるクラブにて人生は一変した。大音量のEDMの中、アルコールに浮かされていたはいつしか友人が姿を消した事にも気づかず、見知らぬ男から渡された新しいグラスに口をつけた。

記憶があるのはそこまでで、次に目覚めた時には見知らぬ男達に犯されていた。その時、記憶を取り戻した瞬間にを犯していた男が尾形だ。ムスクの強いうだるような甘さの匂い。

悲鳴を上げかけたの口を手のひらで覆い、一層動きは激しさを増した。知らぬ間に散々と浮かされていた身体は与えられる快感を素直に受け入れる。息も絶え絶えのまま気づけば尾形にしがみつき、幾度も達していた。

その後、ぼんやりと床に寝転んでいるに近づき、スマホを見せる。液晶の中では昏倒している己が服を剥がされ、好きに蹂躙される様が垂れ流されていた。

後々、話を聞けば友人はこの尾形に惚れ込んでいたらしい。だから、彼の言う事なら何でも聞いた。誰か他の女を連れて来いと言われれば、言われるがままに友人であるを差し出す。生贄にされたのだ。これらも全て最中に尾形が囁いた言葉だ。

尾形はあの初日以来、気分次第でを呼び出しては犯した。連絡を返さないと最中の動画を送って来る。断る事は出来なかった。彼はこちらの生活に侵入した。

だからこの男の事が死ぬほど嫌いだ。大学にも最近ではまったく行っていない。そんな中、監禁されたのだ。私の人生はこの男に破壊された。今も尚、身も心も。だって現にイマラチオさせらているにも関わらず、疼きっぱなしの身体はおさまりを見せない。


「こいつ、何日目?」
「え、五日」
「お前…」
「だって意外と頑張んのよ、ちゃん」


涙と鼻水と涎で顔面から胸元までグショグショに汚れている。尾形は荒々しい動きを止める事もなく、宇佐美と会話を続ける。


「…だったら丁度いいな。あれ、やるか」
「マジか!」


だったら準備しないとな。そう言い、宇佐美はいそいそと準備を始めた。尾形が言う「あれ」とはゲリラ配信の事だ。彼らが運営をしているいかがわしい商売の一つに、動画配信サイトがある。海外にサーバーを置き、法の目を掻い潜っている類のサイトで、表向きにはライブチャットを使った出会い系をメインに運営を行っている。

のだが、有料の会員専用のページにアクセスする事によって裏メニューである『動画配信』を楽しむ事が出来るのだ。主な収益はこの『動画配信』があげている。やらせが一切ない、極めて激しいエロさが売りだ。演者が素人しかいないという点もリアリティに磨きをかけている。

つい先刻からそのサイトのアクセスがうなぎ上りに増えており、配信ページには秒毎に凄まじい視聴者が訪れている。このサイトの人気コンテンツであるゲリラライブが行われているからだ。画面の中では背面騎乗位の女が下から突き上げられている。このサイトの女は最初に顔出しをしない。幾度か動画が配信され、課金レベルが一定のランクに達成すると顔出しを要求する事が出来るようになる。アイマスク姿の女は泣きながら感じており、もう何がなにやらわかっていない様子だ。


「嫌だ嫌だって言いながら、自分で腰振ってんじゃねぇか」
「あ、違、」
「あ?何が違うんだよ」


大きく足を開き尾形に跨ったは、下から突き上げる度に身を襲う感覚に抗う事が出来ない。尾形が笑いながらの尻を叩いた。違う。喘ぎながらそう言い、腰を艶かしく動かす。はち切れそうに充血した陰核に尾形の指が伸びた。の全身が小刻みに痙攣した。幾度も達しながら、それでも突き上げる動きは止まらない。

カメラは前方固定であり、基本は女の身体や顔メインに撮影はされている。カメラの後ろに立つ宇佐美はマイクを片手にナレーションをつけだした。このナレーションは字幕で動画に表示される為、極めて卑猥に、大げさに発せられる。ある種、このサイトの隠れた人気コンテンツとも呼べる代物だ。


『淫乱奴隷のちゃんは、な~んと五日間から寸止め地獄真っ最中!今まさに絶頂を貪ろうと必死に腰を振ってるところ!だけど??』


尾形がの腰を掴み動きを止めた。男の力は強く、どうもがいても振り払う事が出来ない。


「何だよ、嫌なんだろ?」
『そうそう僕らは紳士!女の子の嫌がる事はしないんだよね?!』
「あ…」


数えきれない程イきはしたものの、肝心の中イキはまだだ。尾形が動きを封じるまではあと少しでイけそうだった。膣内の動きで尾形は分かっていたのだろう。だから、あえて止めた。気が狂いそうだ。はあはあと浅い呼吸を繰り返す口元からはだらしなく涎が垂れ、あと少しの快楽に身を捩る。今更、なりふり等構ってはいられない。


「お願い……」
「あ?」
「中イキさせて……」


呟いた瞬間、全身がゾクゾクと震えた。堕ちるに堕ちた。そう感じた。


『はい!ここでTIMEアタック!これから30分間、中イキしたいちゃんのショータイムになります?!視聴者数が2000を超えると念願の中イキターイム!』


宇佐美のやたらと明るい声と共に、一旦配信の停止された画面上では条件などが表示され説明が続いている。ここから先は更なる課金が必要になる。アクセス数と金額がその女の価値だ。


「って事で、頑張れよ、
「え」


尾形がズルリと性器を抜いた。どういう事、そう尋ねる間もなくアイマスクを外される。目の前にはばら撒かれた性具が散らばっている。


「ここからはVIP会員のみだ、精々励みな」
「待って、」


そう言い伸ばしかけた腕から尾形はスルリとすり抜けた。その代わりに捕まれた腕。覆面をした男数人がの身体を押さえつける。


『とりあえず低周波つけてこー!』


宇佐美の指示が飛ぶ。男達はの四肢をベッドに縛り付け、皮膚の柔らかい場所にペタペタと低周波のパッドを貼り付けている。男達はの全身を酷くソフトに撫でまわし、オイルを垂らす。


『ご褒美が欲しいなら頑張らないとね!』


カメラの向こう、水を飲む尾形がいる。つい先刻まで体内で蠢いていた性器は未だ聳り立つ。見知らぬ男達の指先は人の身体を縦横無尽に撫で全身の性感を高める。感じながらも、無意識に尾形を見つめていた。