試すような愛の言葉


   「お前ってちゃんの事好きなの」

何の前触れもなくそう聞かれ思わず動きが止まった。そもそも、ラギーが話しかけて来る事が珍しい。レオナや他の生徒がいる時なら話は別だが、彼とサシで話をする事は余りない。酷く社交的に見えて、その実、心を開く事がない。彼はそういう男だ。

今日はいつもよりも早く目が覚めた為、普段より1時間ほど早くグラウンドに出て来た。誰もいない早朝のグラウンドは冷えた空気が肌を刺し気持ちがいい。そもそも誰もいない、という点が何よりも気持ちいい。

と思っていれば、グラウンドの隅に片付けられていない道具類を見つけてしまい、気分は台無しだ。一度目にしてしまえば当然許せず、一人片付けだす。

どこのバカが放りっぱなしで帰りやがったんだとボヤいていれば、ジャック君は本当に偉いねェ、だなんて声が聞こえ顔を上げた。


「…ラギー先輩」
「おはよ」
「早いっスね」
「そっちこそ」


他愛もない会話をしているのだけれど、正直なところ何と返していいのか分からなかっただけだ。

ラギーが早く起きるのはレオナを起こさなければならないからで、彼は日頃から他の寮生より起きる時間が早い。


「…何してるんスか、まだ時間じゃないでしょ」
「いやー何かさ」


目が醒めちゃって。
そう笑うラギーは別に片づけを手伝うわけでもなく、倉庫の入り口にもたれかかりこちらを見ている。会話を続ける気はなさそうだし、こちらだって紡ぐつもりはない。

どこのどいつが散らかしっぱなしにしたんですかね、なんてぼやきながら片付ける。そんな時だ。急に上記の言葉。思わず動きを止めた。
えっ、あんた今。何て言った?


「あー、やっぱ図星?」
「え?」
「仲いいじゃん、二人」
「俺とが?」


そうっスかね。


「えー?何、その反応」
「何って、別に」
「好きじゃないの?」
「そういうんじゃないんで」
「本当に?」
「マジっス」
「えー?だったら」


俺が貰っちゃおうかな。
そう言ったラギーの顔。普段のにやついた顔からは想像もつかない、やけに真面目な顔。ああ、これは見覚えがある。捕食者の眼差しだ。

これを言いたいが為の舞台を整えられたのだろうかとも思ったが、それならそれで御大層な事だ。


別に俺とはそんなんじゃねェし、
だってほら。そうだろ。


気づけばラギーの姿は消えていて、取り残されたのは何時もと変わらない俺だけだ。倉庫の鍵をかけて背伸びする。グラウンドには相変わらず、誰の影もなかった。