途方にくれてしまうよ、そんな嬉しいこといわれたら



   は、明け透けな女だ。所謂ギャルの風体で高専内でも目立っているし(というよりも、創立以来初のタイプらしい。五条悟といいといい、まったく問題児の多い学年だと保守的な京都校の学長辺りからは極めて嫌われている)性格も豪快。

女伊達らとはよく言ったもので、どうやら家系は古い巫女の家系らしいのだが本人はフィジカル寄りの打撃を良しとしている。呪力も強く大抵の事をそつなくこなす彼女を東京校は放任気味だ。

彼女は誰にでも気さくに話しかけるし距離感は近い。性的な魅力も隠す事無く短いスカートで胡坐をかいたりと素行を上げ出せば枚挙に暇がない。

そんなの事がいつしか好きになっていた。は誰にでも馴れ馴れしい程に話しかけるし背後から抱き着いて来るなんて日常のスキンシップだ。そんな事は重々承知なのだけれど、いつしか恋に堕ちていた。それに理由なんてない。

最初の頃はまさかこの私が、と認める事が出来なかったが放蕩な彼女が姿を見せないとなると気持ちが落ち着かないし、久々に顔を出したが硝子相手に話をしている姿を見ると居ても立っても居られない。

はよく遊びに出掛ける。それは夏油も知っていて、彼女の行先が渋谷のクラブだったり、しょっちゅう大学生や社会人と合コンをしていたり、何なら外泊続きでしこたま怒られていたり(当然何とも思っちゃいないわけだが)している事も知っている。

誰か特定の男と付き合っている事実こそないものの、不特定多数の男と遊んでいる事は自明の理であり、悟からはハッキリと『あいつはやめとけマジで』そう言われている。

だけれど恋心というやつは余りにも裏腹でいう事を聞かない。反対されればされる程勝手に燃え上がる。この一月は自分でも呆れる程、結構露骨に好き感を出しているのだけれど当のはまあ、冗談みたいに気づかない。これが又、まったく気づかない。

ボディタッチの多い彼女は頻繁にこちらの腕を触ってくるのだけれど、その手を逆に掴み返しても何ら動じない。何ならそれを傍で見ている悟の方が落ち着かない挙動をしている。

は男女問わず誰にでもバレンタインのチョコレートを配るのだけれど、今年は意を決し、チョコを渡された際に彼女の手を掴み「本命?」と聞いてみた。つい先刻、「いらねー!」「貰えよ!」と言い合っていた悟の真横で私はやってのけたんだそんな真似を。

それなのには、「全部本命だけど?」なんて笑う始末。、お前、何個あげてんだよ…!と思うも当然言えない。

尚、配り終えた彼女は他校の男と合コン!と言いながら風の如く消えて行きましたとさ。流石に見かねたらしい硝子に、ドンマイ夏油、と言われるほど落ち込んだ。何をしているんだ、私は…。









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バレンタイン当日の合コンは流石に微妙なメンツで逆に笑えた。まあ、彼女持ちは流石に来ないよねぇ、なんて思っていればだ。何故か五条が顔を出して死ぬほど驚いた。こんな男が来ちゃったら、こいつら立つ瀬がないじゃん。

クラブで知り合った大学生の女子たちは一斉に色めき立つし、何なら他の席の女子たちも五条を指さし釘付けになっている。



「は?何?」
「いーから来い!バカ女!」
「いや、あんた付けてたの!?キモイんですけど!?」
ちゃん、彼、誰!?」
「あー、ヤバいっしょこれが五条悟!」
「ヤバいってマジでイケメンじゃん!」
「付き合ってんの?」
「ないないそれはない」



そのまま五条に腕を掴まれ無理矢理店の外に連れ出された。外も人通りは多い。死ぬほど目立つ五条に連れられ宮下公園まで歩いた。



「お前さ!傑めっちゃ凹んでっから!」
「あー」
「わかってんだろ」
「わかってるよー」
「だったら、何だよあの態度」



五条は夏油の事で怒っているらしい。らしいといえばらしい。二人は仲がいい。



「五条は知ってるでしょう、うちの話」
「!」



の実家は古くから伝わる巫女の家系だと表向きには言われている。しかしその実、時代時代の権力者に夜伽を行い、そこで強大な資金と権力を後ろ盾にし、占ごとなどを行ってきた系譜だ。

最初は占いの真似事だったがその内、本当に力のある子が生まれ着実にその名を轟かせてきた。力のある子は長女に生まれる事が多い。その流れが未だ残り、この家に産まれた長女は政界の重鎮に嫁ぐ事が決まっている。政を為す人間に力を与えこの国を支えるわけだ。

この事は呪術界でもタブーとされ、御三家くらいしか詳しくは知らない。だから一般出身に夏油は知る由もない。



「政界の重鎮と呼ばれるじいさん。まぁ、あのジジイもいい歳だからね。ちんこはもうそんなに勃たなさそうで、私の放蕩も許容範囲ってわけ」



本当に好きな人がいたら辛いでしょう、とは続ける。だからこんな真似をしている。今しかない。高専を卒業したらすぐに嫁ぐ事になる。

一度嫁げば二度と日の目を見る事はない。は政府預かりとなり24時間体制の監視下に置かれ、政の占いだけに専念すべく軟禁される。食うに困る事はないが自由は完全に失われるのだ。だから、今の内に身も心も使い果たす。心残りのないように。



「だってお前も好きじゃん、傑の事」
「だからさー」
「そんな家、捨てちゃえよ」
「あんたよく言うよねー」



夜の宮下公園は流石に静かだ。ブロックに腰かけ五条と話し続ける。こういう風に自分の話をするのも初めてだし、その相手が五条で、話の内容が夏油の事だなんて笑えてくる。こんなのはまるで普通の学生生活みたいではないか。絶対に手に入る事のないマトモな生活のようだ。



「じゃあ一回やっちゃえよ」
「無理無理」
「お前、割と誰とでもやってない?」
「あんたすごい事平気な顔して言うわね」
「事実くね?」
「夏油はもう無理かなー」
「なんで」



好きになっちゃいそうだから、と言ったは笑っていたのだろうか。下を向いていたので表情までは分からない。それでいーんじゃないの、と返す五条の隣、俯いたは何も言わなかった。