見てない、見てない。だからさ

   相も変わらずまるでいう事を聞かないグリムを追いかけこの様だ。夕飯後の缶詰を仕入れていなかった件(だって今日は酷く忙しかったものだから!)で大喧嘩になり、飛び出したグリムを追いかけた。

どこぞで悪さを働かれたら監督生のがペナルティを課されるのだ。だから夜の敷地内を延々走り回り(とはいえ相手は獣だ、そもそも無理のある戦いになる)確実に体力を削られ、今まさに池に落ちたところです。制服のまま全身ずぶ濡れ。

そんなの姿を見たグリムは、ざまーみろなんだぞー!なんて笑いながらあっという間に消えた。あの様子を見るに、大分気が済んであのまま寮に戻り眠っている事だろう。まったく世話の妬ける獣だ…と溜息を吐きながら池から上がる。

水を吸ったブレザーはズシリと重い。確か替えの制服は数着あったし、この制服はクリーニングに出そうか、なんて考えながらブレザーを脱いだ。その時だ。

お前、何やってんだよ。

急に声をかけられて驚いた。どうやらこの池はサバナクローの敷地内だったらしい。明かりも何もないのだが、獣人である彼らの目は闇にも強い。普通に返事を返してしまったが、そういえばクロウリーに『自室以外では決して制服を脱がないように』と言われていた事を思い出す。慌ててブレザーを羽織った。


「おい、
「あ、レオナさん」
「ウチで着替えてけよ」
「え?」
「池に落ちたんだろ」
「いや、でもグリムが」
「なあ?ラギー」
「俺は知らねーっすよ、何も」
「え?」
「はいはいタオルタオル」


相変らず王族の風格というか、問答無用の感が強い男だ。そのままサバナクロー寮に連行された。どうやらこの寮にはレオナ専用の露天風呂があるらしい。寮の中に露天風呂あるとか王族エグいな…。なんて思いながらも、久々の広い風呂にテンションは上がる。タオルを手渡して来たラギーは、服は乾かすんでそこに置いといて、とだけ告げた。

高台に造られた露天風呂はヒエラポリス-パムッカレのようで、一面の星空が今にも降り注ぎそうだ。資産の差が寮の差なのかと、凹んでいればだ。


「最高の眺めだろ」
「はっ!?ちょ、何で!?」
「別にいーだろ、ここは俺の寮だ俺の好きにするんだよ」
「いや、だったら、出ますから!」
「別にいいだろ、俺が嫌だってのか」
「そういう事じゃ」
「そもそもゲストが口答えしてんじゃねー」


素っ裸で登場したレオナは(前くらい隠してよ!)ザバザバと湯船に入りこちらへ近づいて来る。だから、前を、隠せ、と言いたい所だがそういうわけにもいかず、視線だけ逸らした。若しかして、この男。気づいている?


「いいだろ、ここからの眺め」
(近い!近いよ!)
「夕焼けの草原と同じ空が見える」


何て言いながらジリジリと距離を詰めるレオナが一気に身を引き寄せた。反射的に前屈みになる。これはもう、詰み、だ。


「あいつの魔法は相変わらず完璧だな」
「ちょっ…レオナさん」
「完璧に隠しやがって」


背後からを抱き締め、首筋に顔を埋めたレオナが大きく息を吸う。この匂い、女の匂いだ。そう呟いたように思うがそんな事は今更どうでもいい。レオナが首筋に噛みついた。









■■■■■■■■■■■









湯船の中で散々くんずほぐれつとやらかしてしまい(しかも相手は獣人だ、体力は当然人のそれとまるで違う)湯あたりはするは膝が言う事を聞かず自力歩行が出来ないわ(…レオナに抱えられ風呂から上がりました)散々な目に遭った。体力の限界を迎えていた為、風呂から上がった後の記憶は殆どない。

只、明け方近くに目覚めたものの、レオナががっちりホールドをかましていた為にまったく身動きが取れず逃げそびれた。そうなればもう諦める他なく気づけば二度寝していて今だ。それにしたってこの男も大概起きない。


「レオナさ~ん、そろそろ起きてくださいよ~」
「あー」
「もう昼っスよ~」


ラギーの声にようやくレオナも多少は覚醒したらしい。身体に巻き付いていた腕が緩んだ。ドアが閉まったと同時にベッドから抜け出す。レオナは動かない。そのまま我ながら信じられないスピードで服を着て、部屋を出ようとしたその瞬間だ。


「その服、脱ぐなよ」
「!」
「俺以外の前で」


クロウリーより渡された制服には、フェロモンを消す魔法がかけられていたらしい。レオナの声を聴いた途端、昨晩の出来事が思い返され、とても堪らずに走って逃げ出した。