その望みは保留にして下さい

   それは本当にただの偶然というやつで、深夜まで及んだFPSに於ける大接戦を経て買いだめて置いたエナジードリンクが切れたわけだ。昼間だったら絶対に買いには行きたくないのだけれど、深夜ともなれば流石に他寮生はうろついていないであろう。そういう思惑でこっそりと食堂へ向かった。

静まり返った学園内は悪くない。むしろずっとこれでいいくらいなんだが、なんて思いながらこそこそと歩いていれば、少し離れたところから人影が迫って来る気配を感じ、反射的に隠れたわけです。何故かは分からない。

人影はどうやら走っているらしい。時間帯は明け方の4時。は?4時ですぞ?これは4時を朝と捉える類の者?そんなの脳筋サバナクロー生に違いないでござる。恐ろしや恐ろしや、さっさとやり過ごそうとパーカーのフードを目深に被る。

規則的な呼吸音と軽やかな足音。その瞬間、時が止まった。上気した頬と、上下する乳房…乳房!?ち、乳房!?ジャージにタンクトップという余りにも軽装だ。そのタンクトップに覆われたたわわな乳房が眼前を過ぎ去っていったわけで、暫し思考が停止した。

あれはオンボロ寮の監督生…?確かに小柄で華奢だとは思っていたが、アレは随分と着痩せするタイプではござらんか…?いや、いやいやそうでなくお、女―――――!こんな野郎共の巣窟(主に八割がサバナクローのせいで男臭い)に何故女の子が!?!?学園長の仕業!?どういう罠…!?

当然その日はまったく眠れず、翌日の授業は終始眠いと思いきやもうまるで全然眠くない。むしろガンガンに冴えている。多分すっごい量のアドレナリンが出てる。陰キャなのにアドレナリン止まらない。目を閉じればのあの姿が、主に上下する乳房が克明に思い出され下半身にも血液が集まりだす始末。ごめん、実は明け方抜いた。でもこの有様。思春期ですわこれは…。

いや、だって刺激が強すぎるでしょこんなの。だってあの人(の事ね)全然普通に今だってそこにいるし、本当何食わぬ顔ってこういう事ですよおっそろしい!ていうかサバナクローのレオナ寮長とかやたら距離が近いの、あれ気づいてるんじゃないんですか?だってあの人たちハナが利くわけだし、そう思って見ていればボディータッチが多い気がする。ていうか確実に多い、さ、触ってますぞ!?、君、多分セクハラされてますぞ―――――!?!?とんでもないですわサバナクローは本当。野生が過ぎますわ…。

なんて事を悶々と考えていれば、どうやら見過ぎていたらしい。視線に気づいたが近づいて来た。



「イデアさん、さっきからこっち見てますよね?」
「ひっ!」
「何か用ですか?」
「…!」



な、何か覗き込んで来るんだけどそれってあざとくない!?あざといよビッチじゃんとんでもないですぞこの展開。こんな展開、僕そういうのすごい好きなんだけど…!

だけど、そっと耳側で女の子だったんだね、って囁いたらニコニコと愛想のいいの顔が瞬間に強張って、小さな声でえ、だとか何だとか、そんな事を言っていたから、…ばらされたくないんですかぁ?なんて我ながらキモい発言しちゃって、何か必死にその場を取り繕うがとても可愛らしくて、こういうの加虐心っていうの?それなんてエロゲ?僕昨日見ちゃったんだ、君が夜中に走ってるとこ。そこまで続けたら流石にも完落ち。

小さな、小さな声でお願い、だとか、そんな、事を!言う!から!今日僕の部屋に遊びに来てよって交換条件を出した。もう僕もありとあらゆる知識を総動員して、この昂りを諫める方法を模索。術は、なし!

指定した時間に部屋を訪れたを招き入れ、互いに気まずい感じをヒシヒシと感じつつも口火を開いたのは彼女の方で、お願いです内緒にしておいて下さい、だなんてしおらしい事を言うわけ。何でもします、とか言っちゃうわけ。

もうそれアウトー。、それは言っちゃ駄目だって。だって、そんな事言っちゃうと、



「ヤダ、やめてください…」
「だって、内緒にして欲しいんでしょ?は…」
「…」
「…」



なーんて展開ありえるかも知れませんぞ!?!?!?なんて超妄想をこの数秒の間に考えていたら、イデア先輩どっか行っちゃった、みたいな事を言いながらは離れて行っているし、サバナクロー達はじっとこちらを見ている。

あ、その目。お前も気づいたのかって目。ご勘弁、あなた方のテリトリーは侵しませんよ某。から来るなら別ですけどー!

そそくさと席を立ち寮へ戻る。さっきの妄想は早速これから使わせて貰います故、さらばでござる。