艶やかに染め上がる

   元々二人相容れない立場の人間だ。モラウは海を縄張りにしているし、こちらはこちらで雑踏を縄張りとしている。所謂『協専ハンター』というやつで、政府関連のキナ臭い仕事ばかりを請け負っているのだ。理由は只ひとつ。金が良い。それだけだ。何故そんなに金が必要なのだと、出会うハンターは漏れなく聞いて来る。それにしたってリスキー過ぎる真似だと言いたいのだろう。

何故。そんな事はにも分からない。お金は多分にあった方がいいし、スリルにしたってそうだ。恐らく私という人間は、人として大事な部分が欠落しているのだろう。

どちらかといえば血生臭い方が好きだし、今日も5人ほど素手で殺して来たのだし、お腹が減って仕方がない。がっつりと肉が食べたいなあと思っていれば、モラウからのメッセージだ。相変わらずベストタイミング。こちらの頭の中を覗いているかのような正確さで彼は誘いをかけてくる。

返信を終え、ファンデーションのケースを取り出す。ベースに力を入れているだけあって、あれだけ暴れたのに少しもよれていない。薄く化粧を直し、リップを引き直した。



「誘ったのに何で先に食べてるのよ」
「もう店にいたんだ、仕方ないだろ」
「じゃあどうして誘ったの」
「そんな気がした」



いつもこうだ。モラウはずるい。



「お前、又、協専の仕事に行ってたんだってな」
「何?説教?」
「やめとけやめとけ、癖になるぜ」
「何よそれ」
「お前にゃロマンがねェ」



ああだこうだと理屈を捏ねるモラウを前に、ああ、だとかそう、だとか短い相槌を重ねるは肉を切りワインで流し込んでいる。

ロマンとかそういうのよく分からないし、目に見えて手に取れるものしか信用してない。だってそんなの、誰が教えてくれるの?



「そもそも、お前さんは可愛げがねェんだ」
「何よそれー」
「男からメシに誘われてるってのに」



だなんて、そんな事をまるで素面で。



「女を誘ったんなら、先に食べ始めてなくない?」
「そりゃ、そうだ」
「ちょっとー」
「まあ、飲めよ。



このタイミングで、好きだ、なんて言ったらどんな顔をするのかな。次からはご飯に誘ってくれなくなる?若しくは先に食べ始めたりはしなくなるの?分からない、分からないけれどそうやって視線で他の女を追ったりする事はなくなるのかしら。



「お前、何かよからぬ事を考えてるだろ」
「え、何で」
「目を見りゃ分かる」
「モラウ、私の事好きすぎ」



図星をつかれた事が何だか恥ずかしくて、矛先をモラウの向けるような言葉で返したというのに、当のモラウはそうだぜ、だなんて平気で言う。俺はお前が気に入ってるからな、そりゃ見てりゃ分かるさ。サングラスの奥の眼差しはまるで見えないのに、じっと見られているような気がして視線を逸らす。顔が熱いのは、きっとワインが回ったからだ。