星が堕ちるのを待つばかり

   『監督生』が元の世界に戻って早三年だ。

NRCに入ったジャックの口から、ある日突然聞こえてくるようになったその呼び名。余り誰かとつるみたがらないジャックの口から色んな名前が聞こえ出したのも丁度その頃で、新しい学園生活にも慣れ楽しんでいるのだろうと思っていた。

名門魔法士養成学校であるNRCは男子校だ。だからもジャックと同じ学校に行く事を諦め、別の魔法士養成学校へ進んだ。

こちらは共学で、それなりに楽しい3年間を過ごしたはずだ。数人の先輩に憧れを抱き、3人の先輩からは誘いを受けた。学年内で上位成績者10人にも選ばれ、文化祭の伝統であるMr.Mrsコンテストにも選出された。

都合の悪い話は何一つしていない。誰かに告白されただとか、気のあるらしい他校の生徒と遊びに行っただとか、そういう思い出は一つも。

そんな小狡いこちらの気持ちも知らず、ジャックは何でも気さくに話す。そんな彼は『監督生』の話も自然にしていたが、その『監督生』の事で半年程、黙っていた事があった。

とある話の中でその『監督生』が女性だという事を知り心が冷えた。何故。率直にそれだ。ジャックは知らなかったと言っていたが本当だろうか。我々は鼻が利く。男か女か、その程度の差は容易に気づくはずだが。何よりもこちらが気づかなければジャックはその事実を告げるつもりがなかったのではないのか。その事が引っかかり心は更に沈んだ。だけれどどうする事も出来ない。スマホ越しに伝わる情報は心を弱らせる。

ウィンターホリデーを心待ちにし顔を合わせる度に心がときめく。この男は私のものだ。誰にも渡したくはない。今にも泣き叫びたい気持ちを押し込め、普段通りに微笑む。NRCに戻る彼の後姿を見送り泣く。それの繰り返し。



「よぉ、そっちはどうだ?」
「こっちは普通」
「ごめんな、準備を任せちまって」
「全然平気」



その『監督生』はある日突然消えた。元の世界に戻ったらしい。彼女はこの世界に訪れた時と同様に突然消えたのだ。別れの挨拶も出来なかったとジャックは言っていた。

その話を聞いた時の安堵。自己嫌悪に陥る資格もない程に肥大した嫉妬心。最低だと思えた。だからといってジャックは何も言わない。当然といえば当然だ。別に彼は最初から何も言っちゃいなかった。



「次はいつ位に会えるの?」
「今回の任務が終わったらだな」
「長い?」
「半年はかかる」
「長いなぁ」



軍に配属されたジャックは長期間拘束される任務に就いている。昔と違うのは、彼との間には恋愛関係が成立していて、互いの両親に挨拶も済ませている事。次の長期休暇にジャックとは結婚式を挙げる予定になっている事。

何も不安に思う必要がない。二人の間に障害は一つもなく未来は明るい。だからどれだけ会えなくても辛くはない。この男は私のもの。ようやく手に入れた。だけれど、それなのに。ジャックの中にあの女の影を感じる。いや、私の中にいるのかも知れない。

私達二人の間に突如現れ消えた『監督生』という名の女は、いつまでも染みつき、きっと消える事はない。ジャックは、彼女を忘れないだろう。それはきっと、私も同じだ。