真実の芽吹く季節

   薄い朝の光が差し込んだカーテンの隙間が一気に開けられ、浅い眠りから一気に引き戻された。余り良くない酒が未だ残っているようで多少頭がフラつくも、色んな記憶が一斉に蘇り酔い自体は一瞬で醒めた。

ここは見知らぬ部屋で、これは見知らぬベットの上で、そうして自身は招かれざる客のはずなのだ。起こしちゃってごめんね、と呟くの表情は読めない。これは確実に失敗した。しかも抜群に『取り返しのつかない』失敗だ。



「大丈夫?相当飲み過ぎてたみたいだけど」
「いやーごめん、本当ごめん」
「え?何が?」
「や、ほら」



俺は素っ裸だし、お前も何かそれに近い恰好だし。



「別にそういうの気にするタイプでもないでしょ」



このと出会ったのは昨晩が初めてだ。この近くの酒場で声をかけ、最初は面倒臭そうな態度だった彼女の気をあれやこれやと手を付くし惹いた。どうしても話をしたかったからだ。はこの街で暮らしていると言い、気晴らし程度に店の手伝いをしているとも言っていた。それらが嘘だと知っている。

彼女は確かにこの街で暮らしているが、何でも屋のような仕事を生業としている。主に武力行使の仕事を請け負い、この街に乗り込む輩を撃退しているのだ。仲間は他にいない。この街に降り立ち数日、の事を張っていたサボだから分かる。わざわざ彼女に会う為にこの街までやって来たのだ。俺には、それをすべき理由がある。

初めて見たは想像していた女とはまるでかけ離れていて、まああいつの好みは何となく手に取るように分かるんだが、それとも又違うし、って事はより深い関係だったのだろうと容易に想像がついた。は想像よりも大人の女で、あいつが好みそうなタイプではなかったからだ。

まあそれも結局はこちらの頭の中だけの話で、記憶喪失の間にあいつがどんな思いを抱き生きていたのかまでは分からない。だからそれを知る為にここへ来た。いや、そのつもりだったのだけれど、



「いや、本当にすまん」
「もういいって」
「や、本当に」
「子供じゃないんだから」



物事の分別くらいつくわよと笑うは、何だかこちらを見ていない気がして気持ちが悪い。ああ、だけれど。それは昨晩も同じではなかったか。初めて声をかけたあの瞬間から、の目はこちらを見ず、遥か彼方を見ていたのではなかったか。

こうなってしまえば自分なんて男は至極単純で、言葉が出るより先に手が出る。の腕を掴みこちらへ引き寄せた。バランスを崩したが倒れ込でくる。少しだけ驚いたような表情を浮かべたは、嫌だな。そう呟いた。嫌だな。変なとこだけ似てるんだから。



「ごめん、本当に」
「別に」
「俺は、そんなつもりじゃ」



只、あいつが愛した女を見てみたかっただけなんだ。エースが愛した女をこの目に。マルコにはやめろと言われた。あいつはようやく立ち直ったんだ、邪魔してやるなよぃ。そう言われていたにも関わらず、我慢が出来なかった。あの自由過ぎる男が一人の女を愛したという事実。どんな女なのかと興味がわいた。



「別に何も」
「何もないわけないだろ」
「…」
「何もなけりゃ、そんな顔するかよ」



エースは勝手な男だった。とても身勝手な男でいつも泣かされた。絶対に好きになって堪るものかと思っていたのに、心を好きに踏み荒らしいつしか持ち出された。恋に落ちる前も落ちた後も泣いた。エース所以の涙は出尽くした。あの頃まだ二人は若かった。散々傷つけられ嘘を吐かれ、それでも愛していた。



「違う、違うのよ」
「何が」
「私も、あんたの事は知ってた」
「!」
「だから」



サボはサボで、にそれ以上先の言葉を言わせたくなく、出来る限りの力で抱き締めた。エースの力を受け継いだこの男の存在を耳にし動揺した過去、一目姿を見ようと近づき逃げ出したその後。まるで違う男なのに、そこにエースがいるような気がして恐ろしくなったからだ。だから、昨晩この男が声をかけてきて酷く驚いた。それと同時に、もう誤魔化しきれないなと腹を括った。



「俺は、サボだ」
「私はよ」
「ああ、



こんな時、あの気まぐれな男はどうするだろう。そんな事を考えている。別にどうでもいいじゃねェか、先の事なんて分かりゃしねェさ。そう言い無責任に口付けるだろうか。酷く近い唇の距離で留まるサボもきっと、同じ事を考えている。