愛の手紙が届きました

   その日は既に早朝から最悪で、まず何度起こしてもグリムが起きない。どうやら昨晩、エースやデュース達と夜遅くまでゲームをしていたらしい。

昨晩は相も変わらずモストロ・ラウンジでのバイトが入っており(というか、最近ではバイト終わりのあれやこれやの方に力が入っているようで、昨晩もひたすら遅くまで相手をさせられた)明け方近くにようやくオンボロ寮に戻って来たのだ。

その時間帯までも三人はゲームをしていたという事になる。こんな理由で寝坊だなんて絶対に許されない、万が一寝坊の一つでも仕出かしてしまった場合、とりあえずヴィルからは言及されるだろうし、最悪な事に一限目は魔法薬の授業だ。クルーウェルにこれ以上つけ込む隙を与えてなるものかという強い気持ちだ。

そんな強い気持ちでばっちりと目覚めはしたものの、肝心なグリムが一切起きやしない。



「こ、これ…氏…?」
「…」



とりあえず朝一からそれで、どうにか駆けこんで授業に間に合いはしたものの、財布は忘れるわ、それ故に昼食は抜きになるわ(オクタヴィネルの三人がおやおやどうしました、だなんてしたり顔でやって来たが無視をした。あそこに借りを作るのは本当にマズイ)でヘロヘロになりながらようやく迎えた放課後。



「…どうして」
「不用心ですぞ、ていうかこれまで見つかってないのが奇跡っていうか」



今、イグニハイド寮の中で脅迫されています。最悪。この最悪な一日のきっかけであるグリムはゲームをするんだぞ!と誰よりも先に飛び出して行きやがったし、今日という日は本当に疲れたなとオンボロ寮に戻ろうとした瞬間、スマホにメッセージが入って来た。まったく知らないアドレス。迷惑メールかと思うも件名にこちらの名が入っている。気持ち悪いな、と思いつつも開いた。



「ちょっ…盗撮してたんですか」
「盗撮、とか心外ですわぁ…勝手に映ってたんですわ監視カメラに」
「監視…!?」
「学園内のセキュリティは我がイグニハイドに一任されてるんですよねぇ」
「!」
「設置されてる監視カメラのログを見てたら、キミが出てきてさ」



まあ、それ以外にも出て来てる奴はいたんだけど。イデアは何事かを呟きながら笑っている。最悪だ。開いたメールに添付されていたのは、昨日の蛮行。誰もいないから大丈夫、だなんて言葉には一切の信憑性がない。

そこまでやる気がなかったはバイトが終わりそそくさとモストロ・ラウンジを後にした。アズールとの契約では少なくとも側に選択権があったからだ。しかし、昨晩は相手が悪かった。これまでタイミングが悪く、数回相手をしたアズールやフロイドではなく、一度しか機会がなかったジェイドが求めて来たのだ。

とりあえず疲れてるんで、と軽くあしらい逃げ出したのだが彼はついてきた。体調がよくないんですか、それは心配だ。僕がお送りしますよさん。そんな甘い言葉も当然ながら最初だけで、腰に回された腕はを引き寄せ、オクタヴィネル寮を出てすぐの廊下で壁に押し付けられた。

こんな所でやめてよと言えども、こんな時間ですよ、誰もいません。ジェイドは耳側で囁く。そのまま近くの部屋で一戦交えた。確か予備室だったと思う。不要な教材などが置かれている場所だ。そうこうしている内に様子を嗅ぎ付けたフロイドも合流し、もう散々だ。

動画はその予備室での行為であり、メールの文面はたった一文、17時にイグニハイド寮へ。



「…で、何が目的なんですか」
「…」
「え?何?」
「…とある魔法をかけさせて欲しいんですが」
「はい?」



イデアからの申し出は、不完全かも知れない魔法をかけさせてくれ、だった。絶対に脅されるのだろうと思っていた分、少しだけ拍子抜けする。心がこの学園に侵されているのだ。



「一回だけ、一回だけでいいから!」
「えぇ…」
「お願いしますっっ!!!」



脅されるかと思いきや懇願され、その動画を消してくれるならと申し出を受けた。あんな動画が存在している事を知られでもしたら自身がどんな目に遭うか想像するだけで恐ろしい。すっかりテンションの上がったイデアはすぐに準備するから!といそいそと動き始めた。

これまでイグニハイド寮に来た事はなかった。イデアの部屋は見た事のないグラフィックに彩られ、オンボロ寮とは雲泥の差だ。ここには科学が存在している。準備が出来たと呼ぶイデアの前に立ち、早く終わらせてねと告げた。



「オッケーオッケー」
「痛くない?」
「全然」



そう言い、にマジカルペンを向ける。とっておきの呪文だ。この僕の望みを叶える呪文。終わったよと声をかけるも、はきょろきょろと自身の身体を見回し、どこかに変化がないのか確認している。どうもない。見た目にはどうもないはずだ。今はまだ。そのまま目の前で動画を消し、安堵したはオンボロ寮へ帰って行った。














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深夜もてっぺんを回った頃だ。そろそろかなと思っていた矢先、部屋のドアをノックする音が聞こえベットから飛び起きる。気づかない振りをして、誰ですかぁ、ととぼけながらドアを開ければ、そこには血相を変えたがいた。



「…こんな時間にどうしたんですかぁ」
「いいから、中に入れてください」
「いやいや、こんな時間に男の部屋に上がり込むとか」
「早く!」



の髪は濡れている。どうやら入浴直後のようだ。っていうか、ブカブカのジャージを着て、生足丸出しってどういうつもりなの本当。押し問答をしながら室内に侵入したを見下ろす。ああ、駄目だ。きっと笑ってしまっている。



「わ、私に何をしたんですか」
「何を、とは?」
「あの、身体が、」



―――――そう。これは大成功ってやつで、そもそも僕がにかけたのは『エロ同人の魔法(イデア命名)』。最近ハマっているエロアニメの要素をふんだんに取り入れた魔法で、本来ならばアンドロイドに投影し商品化するつもりだったのだが、どうしても人体で試してみたくなった。だってそんなの夢じゃないですか。エロゲみたいな事、やりたいでしょ誰だって。

只、余りにも現実的な話ではない為にほぼ諦めかけていたのだけれど、昨晩、まさに丁度エロ同人みたいな真似をしているがうつった映像を発見してしまった。完全にこれは運命。この機を逃す手はない。



「身体が、どうかしたの?」
「…あ、あの、これ!」



がオーバーサイズのジャージを卓志上げた。白い肌の太腿が露わなり、その上、まるで臍に届きそうなほど屹立した男性器のようなものが聳える。



『エッッッロ!!!監督生エッッッロ!!!大成功なんだが!?!?』



「これ、何なんですか!!」
「大成功だった模様…感無量過ぎワロタですわ…」
「さっきシャワー浴びてたら急に…!」
「時差は+3時間くらい…誤差の範囲内として」
「何これ!どうしたらいいの!?」



当然ながらは大変パニくっていて、今にも泣きだしそうだ。そりゃあそうだ。あんなに立派なイチモツがにょきにょきと生えて来たら正気じゃいられない。望んでもいないのに。



「…あの、提案があるんだけど。それ、収める方法教えてあげてもいいよ」
「本当ですか…」
「うっ!疑うなら別に僕は…」



とは言いつつも確証は一切ない。ただ、目の前にいる性癖詰め込みエロ監督生とあんな事こんな事をやりたいだけです。拙者、思春期なもので。はといえば他に術もなくイデアに頼らざるを得ない状況だ。諦めたようにお願いしますと呟いた。