死が終わりだけではない

   蔦の絡まるこの塔に幽閉されどの位たったのか分からない。天窓から差し込む光だけが外界との繋がりを感じさせる。天蓋付きのベッドは室内同様ロココ調で統一されており、四肢を括りつけられている以外おかしい点はない。

四六時中ここで時が流れるのを待つだけの身体は何の為に生きているのかが分からない。床ずれが出来ていない理由は只ひとつで、定期的に身体を動かしているからだ。

雨の日も晴れの日もあの天窓が知らせる。彼は夜にしかここへ来ない。だから僅かにでも光が差している間は安堵出来る。一日も欠かさず必ず訪れる彼に怯えているのか、それとも誰も訪れなくなるその日に怯えているのかは分からない。

最初、ここで目覚めた瞬間の絶望は未だに忘れる事が出来ない。何もかもがまるで理解出来ず、只四肢を拘束されている事実に怯え狂ったように叫んだ。彼は不機嫌な様子で窓の側に座っていた。



みっともない、獣みたいに叫んで。



そう言い、の口に枷を付けた。そんな獣のような声を二度と出す事がないようにと囁きながらだ。枷はの舌を固定し喋る事も出来なくなった。絶え間なく垂れる唾液で汚す事がないようにと服は脱がされ、今の様にほぼ裸の状態で拘束される。

全身のどこにどんな傷があるのか、黒子があるのか。それを一つ一つ記録され彼の理想値に近づけるように手入れが始まった。首から下の体毛は脱毛を施され、髪の毛程の傷もないようマッサージを繰り返される。彼が直々に行うそれは際どく幾ら我慢をしても自ずとくぐもった声が漏れた。



いやらしい娘ね。



彼はその都度微笑みながらそう言う。それが堪らず悔しくどうにか声を出さずに済む様に歯を食いしばるのだが叶わない。彼はの弱点などとっくに手の内で、それらをいたぶる様に指先を這わせる。



いついかなる時も溢れる程に蜜を湛えて置きなさい。



彼はそう言い愛撫する。延々と続けられる事により抵抗する気も失せ、口枷が外される時には甘い喘ぎ声を漏らすようになっていた。心が陥落した証拠だ。

もう一つ、の心を殺したものがある。ここで最初に目覚めた時からつけられていたオムツだ。裸に剥かれてもそれだけは履かされていた。拘束されてからというもの、口に運ばれるのは甘く熟れた桃だけの為、尿意は頻繁に催す。桃には水分が大量に含まれているからだ。

だけれどオムツに排尿する事に大変な抵抗があり、暫くは我慢していた。それさえも彼は見透かし、必死に耐えるの膀胱を外部から刺激した。やめて、やめてと泣くの髪を撫で、悪いものは全部出してしまうのよ、と囁く。最初の排尿は泣きながら。排泄は自暴の状態だった

。毎日のオムツ交換も彼の役目で、沢山出たわね、と微笑まれた時は死んでしまいたかったが、生憎その時はまだ口枷をしていた。死ぬ事は叶わなかった。

幾日も幾日も桃を喰わされ、の排泄物からは何時しか臭いが失せた。それどころか全身から甘い香りが立ち込めるようになった。



「…お待たせ、
「ヴィル様…」
「相変わらず、いい香り」



こうなったきっかけを探している。彼はポムフィオーレの寮長で美しく気高い。彼の寮が定期的に行う外部に向けた晩さん会で初めて出会った。で父親の代わりに顔を出した為、ヴィルの事はよく知らなかった。

人々から美しいと称される事には慣れていた為、周りの視線も気にならなかった。ヴィルの事は確かに美しい男だと思った。



「あんたは理想よ、。理想の生き物」
「…」
「排泄物さえ美しい」



ヴィルの視線はずっと感じていた。その視線を特別だと感じなかったこちらに非があるのだろう。晩さん会後、従者に声をかけられはヴィルの待つ部屋へと向かった。覚えているのはそれが最期だ。次に目覚めた時には四肢を縛られこの部屋にいた。父親は、私を捜しているだろうか。



「…あっ」
「この滴、芳醇なこの香り」
「んっ」



オムツを外されたは膝を立て、ヴィルはその間に入り込み亀裂から絶え間なく溢れる蜜を啜っている。桃の如く甘いその汁は何ものにも代えがたく、この世で唯一の甘露だ。

この美しいという娘から垂れ流される蜜を飲み下せば飲み下す程、美しさに磨きがかかる。この娘は美しい。恐らく、このアタシよりも―――――



「…ねぇ、
「は、い…」
「あんたの身体はアタシのものよ」



血も肉も骨も、全てがアタシのものよ。ヴィルは熱っぽく呟く。



「アタシの敬愛する王妃は、白雪姫の肝臓を塩茹でにして食べたの」
「私も食べられるのね」
「そう、跡形もなく、全部」



桃を与え快楽を与え最も美味い肉になるまで待つ。快楽の中で死ぬよう、初日から徐々に蓄積する毒を与えている。代謝はされず、の呼吸器を徐々に弱らせる。外部からの余計なものは何一つ与えてはならない。今となってはの尿でさえ甘く滴る果実のようだ。

だから屹立した男性器で犯しはしないし、彼女はいつまでも純粋なまま、絶え間なく甘露な蜜を垂れ流すヴィルだけの桃娘となり何れ血と、肉となる。与えられる微弱な毒は確かにの全身を侵す。与えられるものは快楽だけ。そうして快楽は私を殺す。

ヴィルの指が抜かれひくひくともの欲しそうに性器が蠢いている事を知っている。だから、今度は桃で出来た氷の張り方を盛って来るわと囁くヴィルに、期待を込めた眼差しを返すのだ。