真実の箱なんて永久に閉ざしてしまいなさい



    その日は恒例でもあるRSAとのマジフト練習試合が行われた。前回はRSAで行われた為、所謂アウェイだという事も手伝いボロ負けしたNRC側のやる気はすさまじく、両校の生徒が入り混じり熱の入った応援が行われていたわけだ。も無論、(マレウスから直々にチケットを手渡された)アリーナ席で観戦をしており、試合は接戦に次ぐ接戦。どうにかNRC側が勝利し幕を下ろした。

確か、今日の打ち上げは任せてくれ、とカリムが大盤振る舞いを宣言していた(ジャミルはギョッとしていたが、今回ばかりは仕方がないと腹を括ったようだった)時だ。RSAの選手がこちらへ歩いて来た。エースを務める花形選手で、見る限りウチでいうマレウスのようなポジションらしい。彼は大喜びをしているNRC陣営にズカズカと入り込み、の前で膝をついた。



「初めまして、プリンセス。お名前は?」
「はっ?!いや、あの、、です」
さん…素晴らしいお名前だ」



男は次に自分の名を名乗り、の右手に口付ける。ギョッとしたは兎も角、その周囲の凍り付いた視線になど微塵も気にしない。やはりRSA側のマレウス、随分と強いハートをお持ちのご様子だ。彼はそのまま我が学園長であるクロウリーの元へ向かった。



「彼女こそ我がプリンセスに相応しい!」
「…はい?」
さんをこちらに編入させてもらえないだろうか!」
「はい?」



突拍子もない申し出に流石の学園長もタジタジといったところで、さんの意志もある事ですし、とはぐらかせば、しかし彼女はそちら側ではないはずだが?と彼は確信をつく。一瞬で空気が凍り付いた。



「彼女の光は我々に近いはずだ。むしろ何故、さんがここにいるのか僕は不思議で仕方がないよ」
「いやーそうです?」
「あなただってご存知のはずだろう」
「はて…」



ざわつく周囲をよそに、マレウスを筆頭とした寮長達は二人の会話を聞いていた。

―――――がヴィラン側の人間ではない事は分かっている。そう、確かにそれは事実だ。しかし惹かれる。だから皆、心惹かれる。惹かれた。これまで触れた事のない光だったからだ。そもそも彼女のような人物はここには来ない。あのような光の持ち主は同じ世界に存在しない。人々には与えられた役割があり皆それになぞらえて生きる。我々が闇であれば必ず光は存在する。は光だ。そんな事は、初見で分かっていた。

それにしても奴等は虫の如く光に引き寄せられるものだと、ジロリと一瞥した。辺り一帯がにわかに不穏な空気に包まれる。隠すつもりのないマレウスの漏らす殺気によるものだ。はっきりとした理由はわからないまでも空気の悪さには気付いたエースが、行こうぜ、との手を引いた。



「プリンセス!」
「は?プリンセス?」
「お待ちを、プリンセス!」
「え?私?」
「何れお向かいに伺います」
「は?」



確か、花形選手の後ろにぴたりとついていた男だ。マレウスを守るシルバーやセベクのようなポジションだと考えるのが妥当だろう。振り払うわけにもいかず流石に戸惑う。



「プリンセス?テメー、うちの生徒に気安く触れてんじゃねーぞ」
「レオナ先輩」
「そう遠くない未来の話です」



男はこちらをじっと見つめそう言った。










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RSAの生徒達もすっかりと引き上げ、打ち上げも終わった。各生徒達は寮へとバラつき明日からの週末に備える。そんな中、各寮の寮長が集まり非公式な会合を開いていた。


あれは正義を振りかざし必ず手に入れる。どうにかして阻止しなければ。あれに奪われる事は許されない。議題は専ら件のに関する話で、ああだこうだと話し合いは難航していた。そんな中、リリアが突如現れる。



「何じゃ、小童ども。つまらぬ事でぴいぴい鳴き喚きおって」
「リリア…」
「奴等はの光に誘き寄せられておるのじゃろう?ならば、その光を奪ってしまえばよい。簡単な話ではないか」



静まり返る場内にリリアの笑い声が木霊した。リドルが口を開く。



「しかし、それではリスクが高すぎる。でなくなってしまう可能性は?」
「ない、とは言い切れん。よくて半々というところじゃな」
「半々…」
「しかし、そのリスクを侵さずおめおめと奪われてよいのかのぅ?」
「奴等は正義の元、凡ゆる術を使う、我々も同じくありとあらゆる術を使うべきだ」
「僕も賛成ですね、ドヤ顔で正義を振りかざされても困りますので」
「で、どうやんだよ」



レオナの問いかけにニヤリと笑んだリリアは、皆を呼び集め小声で囁いた。



「大量の魔力をの体内に注入する。それを1週間も繰り返せば光など造作もなく消え失せる。微塵もなくなるじゃろう。簡単な話じゃ」



ワシも昔はよくその遊びを云々…と上機嫌で話している最中、遮るように、誰がやるんだよ、とレオナが呟く。



「そりゃあ、ウチのマレウス以外におらんじゃろう」



リリアの言葉にその場が一斉にざわついた。レオナは不思議と口を開かない。ただ、じっと見ている。強大な魔力を持つものが口火を切る。理としてはあっている。道理もいく。ただ、腹が立つ。



「のぅ、マレウス。お主はどうじゃ?」
「僕は構わない。万が一でなくなった時は、僕が身請ればいいだけの話だ」



いや、元より僕はそのつもりだが―――――



「まぁ、アタシは構わないわよ、アンタが先でもね。だけれど、そこから6日。その順番は譲れないわね」
(僕も魔力はあるんだけど…)
「だったらオレも協力するぜ!」



まぁ、そこら辺は好きにするがよい。ワシらは準備があるでな。状況は随時報告するから安心せい。リリアはそう言いマレウスを連れ消えた。

これだけの人数がいる中で反対意見はゼロ、熟考する間もなく口火は切られた。では、順番を決めるとしようか。リドルが呟いた。