細められた瞳に何が映っている



    その頃、オンボロ寮ではの部屋でいつもの四人+一匹が駄弁っていた。あの後、とりあえずオンボロ寮での待機を命じられたは結局、打ち上げにも参加できず、顔を出したエース達がジャミルの作ったご馳走をテイクアウトしここへ持って来たわけだ。

打ち上げ自体も普段に比べれば早く終わったのだし、そのままこのオンボロ寮で駄弁っている事となる。ジャミルの作った料理は相変わらずバカ美味で、出来立てが食べたかったなと笑う。



「今日はマジで災難だったなー!」
「あいつ馴れ馴れしいんだゾ!」
「変な人だったよねー」



恐らくは一切気にしていないのだろう。あれは結構な出来事だったのではないかとジャックは捉えているのだが、当人が気にしていないのであれば問題はないのかも知れない。

今日だってをオンボロ寮で待機させろと(確かあれはレオナだったと思うのだが)言われ、当初は一緒に行くはずだった打ち上げにもは行けず、腹を立てたエースが率先して料理をタッパーに詰めの元に行くぞと息巻いた。

エースはの事が好きなのだろう。実は結構前からその事に気づいている。わざわざ明言はしないのだが態度を見れば一目瞭然だ。だからといってこちらが口を出すような話でもない。

当然デュースとも話した事はないのだが、分かっているのかいないのか、あいつはあいつで仲いいなぁ、だなんて言う事もある。まあ、だからだ。時間を見ながらジャックが、そろそろ帰るかと呟き腰を上げた。

今日のあれを見るに、エースは平気じゃないはずだ。2人っきりにさせてやれよというジャックの配慮が生きた結果となる。空気の読めないデュースがエースに声をかけるも、いいから帰るぞと引き摺って行った。

序でにグリムも連行され(グリムは二人の微妙な仲にも気づいているし、ジャックの思惑にも気づいている)急に二人っきりになった。



「な、何だよあいつらあんな焦りやがって。なー?」
「ほ、ほんとほんと!」



数分前まではあれだけ会話が弾んでいたというのに、皆がいなくなったと思えばこれだ。みんなでいた時だって主に喋っているのはエースとなのに。何と無く居心地が悪くなりオンボロ寮の外に出た。

夜空にはまるで空一面を埋め尽す程大きな満月がそびえ、それを目にしたエースがでけえ!と騒ぐも空騒ぎだと分かっている。元々人気のないオンボロ寮の周辺は静寂に包まれ酷く意識してしまう。



「…お前、今日みたいな事があったら、絶対言えよな」
「え?」
「ああいう事、他にもありそーだし」



エースはこちらを見ない。



「どういう…」
「お、俺らに黙ってRSAに編入するとかマジであり得ねーからって事!」
「ちょ」
「じゃーな!また明日!」



エースはそう言い走り去る。彼の後姿を見ながら、今日もこれか、と苦笑いを浮かべた。エースはいつだってこうだ。互いに互いの気持ちに気づいている。あと一歩、僅かな言葉一つでそれは確信に変わるだろう。だけれどそれが遠い。こちらが踏み出せば逃げる。この関係が失われるよりはいいのかも知れない。溜息を吐き踵を返す。

寮に戻ろうとした刹那、一際強い風に吹かれ目を閉じた。すぐに開く。



「やぁ、。この僕が直々にお前を迎えに来たぞ」



目前にマレウスがいた。彼は満月をバックに両手を広げ微笑んでいた。









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迎えに来たと微笑むマレウスは戸惑うの手を取り、簡単に抱きかかえた。そのままディアソムニア寮へと連行される。その間に幾度となくどうしたの?と聞けども彼は答えない。

初めて見るディアソムニア寮は中世のお城を彷彿とさせる。時間帯も時間帯の為、他に寮生もいないようだ。果て無く続く廊下の所々に備え付けられたろうそくの明かりが揺れる。何も答えないマレウスと相成りどことなく恐ろしい雰囲気を感じ足がすくんだ。



「どうした、



先を歩いていたマレウスが歩みを止めこちらを見た。明り取りの窓から差し込む月の光により長い影が伸びる。



「どうして私をここに連れてきたの」
「どうした、。震えて」
「ねえ、ツノ太郎」



何がこんなに恐ろしいのか分からないでいる。それでも今、目の前にいるマレウスは知らない男のようで怖い。これまでオンボロ寮の周りを散歩するマレウスと遭遇する事はあった。その都度、二人で他愛もない会話を楽しんだ。だけれど一度として彼はこちらに触れなかった。抱え上げ別の場所へ連れて行くなんて真似はしなかったのだ。マレウスは怪訝そうな眼差しでこちらを見ている。



「こたえて…」
「それはのぅ、お主を食べる為じゃよ」
「ひっ」



背後から急に抱き締められ、くぐもった声が漏れた。口元を覆われ悲鳴を上げる事も出来ない。正面でこちらを見つめているマレウスは微動だにせず、只じっとそこにいた。記憶はそれが最期だ。