相応しい別れ方



   その女が万屋やに訪れたのは雷鳴轟く夕立の最中だった。うだるような暑さが連日続き正直な所、もうそろそろ死ぬんじゃないかと危機感を抱いていたのだが恵みの雨だ。青天はあっという間に薄暗く曇り、堰を切ったように大量の雨粒が地面を叩きつけた。女は、そんな時に来た。最悪、急に降って来るんだから。そう呟きながら駆け込んで来たのだ。



「いらっしゃ…」
「…」
(え?何これ?)



いらっしゃい、と言いかけた銀時の視線とその女の視線がかち合い言葉が消えた。視線を先に逸らしたのは女の方で、タオル貸してくれる?と新八に声をかけた。銀時はといえば何か言いたげな、やけに挙動のおかしい様子で雨が止まねェな、だとか神楽ちゃん買い出しに行って来ないの?だとか(何言ってるアルか銀ちゃん、クソ雨降ってるネ!お前が行けヨ!等、当然の返答を喰らっていた)意味不明な独り言を繰り返している。

いや、いやいや。絶対知り合いじゃん。何かあった相手じゃん確実にそうでしょ!?喉まで出かかるその言葉をどうにか飲み込む。女はタオルを受け取ると雨粒を拭き取りながらソファーに腰かけた。

続く沈黙。神楽はずっとマンガを読んでいるし、とりあえず冷たい飲み物を出した新八は彼女の真向いに座る。死ぬほど、気まずい。



「あーっと…煙草買ってくるわ……」
「いや、銀さん煙草吸いませんよね?」
「いやいや」
「吸ってるとこ見た事ないんですけど」
「俺程のヘビースモーカーなかなかいないからね」
「あんた土方さんの事散々ディスってますよね」



まだ雨はざあざあと降り続いているというのに、銀時は煙草を買いに行くと言い残し、傘も持たずに飛び出していった。何だってんだあの人は…。っていうか取り残された僕たちにどうしろってんですか、と室内を見渡す。神楽は依然マンガを読み続けているし、女は携帯を弄っていた。



「あの」
「こいつは珍しい本当にではないか!!」
「桂さん!?」
「邪魔するぞ、私はオレンジジュースで!!」
「アタシもね!」
「うるせー!」



振り返り、何の用なんですか、と新八が口を開きかけた瞬間だ。遠慮もなしに桂がズカズカと入って来た。入って来てオレンジジュースを要求して来た。何て厚かましさだ。桂は女をと呼び向かいに座った。



「久しぶり、桂」
「お前、生きていたのか」
「あんたは相変わらず元気そうね」
「それにしたってよくも銀時の元に顔を出したな」
「あいつ、逃げちゃったんだけど」
「そいつは無理もない」



オレンジジュースを出しながら様子を伺う。どうやらこの女は銀時と桂の知り合いらしい。という事は昔馴染みなのだろうか。



「今更何なのよね」
「お前から殺されるとでも思ってるんだろう」
「はぁ?」
「お前を手酷く振ったからな」
「何時の話よ」
「あの頃のお前ならあり得なくもない」
「えっ!銀さんと付き合ってたんですか!?」
「昔ね」
「しかもあの男に振られたアルか」
「笑っちゃうでしょ」
「振られる事はあっても振る事があるとは驚きネ」



別に用があるってわけじゃないのよ、近くに来たからたまにはと寄っただけ。コーヒーご馳走様、とは立ち上がる。



「お前を助けようと悪者になったというのに」
「…」
「銀時が泣くぞ」
「本当、バカな男よね」
「死んで欲しくなかったのだろう」
「私はそこまで弱くないのよ」
「あいつほど強くもないだろうに」



相変らず説教臭いわねと笑い、又来るわと出て行く。傘を差すタイミングで少しだけ反対側を見て踵を返した。ズズズ、と音をたてながらオレンジジュースを吸い込んだ桂は雨が止まんな、と呟く。なあ、銀時。そう続ければ、うるせーよと声が返る。銀時はすぐそこでずっと話を聞いていたのだろう。