悪い魔女の寓話を終らせる為にね



   ここ最近、クルーウェルの授業に小鳥が連れられている。小さな鳥籠に入った小鳥で、小さな可愛らしい声で鳴く。授業の間はクルーウェルのデスク上に置かれていて、生き物の相性で考えればトレインの飼い猫との相性は最悪だろうなと笑えた。

授業中も特に騒ぐ事無く大人しくしていて、天気のいい日には窓辺から外が見える場所に移動する。先生のペットすか、そう聞かれれば、クルーウェルはそうだと答える。

当初は実験用なのかと思っていたのだが、餌をやり可愛がっている様子からどうやらペットという話は本当のようだと生徒達はざわついた。三十代独身の男がペットを買い出すってヤバいだろ、レオナはそう言っていたように思う。檻に入った小さな鳥はすぐに生徒たちの景色に馴染んだ。

丁度クルーウェルが小鳥を連れて来た辺りから体調不良で寝込んでいるだけがこの事実を知らない。小鳥なんては特に好きそうだ、絶対に可愛がるだろうに。鳥とみて野生が刺激されているグリムに様子を伺えども、の容体は分からない。感染症の疑いがある為にオンボロ寮ではない別の場所にて現在療養中だからだ。



「あいつ大丈夫なのかなー」
「みんなでお見舞いに行きたいけどな」
「感染症の疑いもあるから会えないんだゾ」
「マジかー」



朝、オンボロ寮に迎えに行くとグリムしかいなかった。グリムも何故がいないのか分かっておらず、只、監督生の部屋にがいなかった。それだけが事実だった。LINEを送りながらとりあえず授業へ向かう。

一限目の授業が丁度クルーウェルの授業であり、そこでの状態を知らされた。確かお前たちは仲がよかったな。クルーウェルはそう切り出し、が昨晩から熱を出し寝込んでいるという事、魔力のない彼女故にかかった可能性もあるが感染症の疑いもも晴れない為、授業前に採血をして来いと告げられる。

対象はエース、デュース、ジャック、グリムの三人+一匹。こちらは皆問題がなかったのだが、の容体は中々よくならない。状況が改善次第、知らせるとクルーウェルは言っていた。









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大きな一枚窓に燦々と月の光が降り注ぐ。鳥かごの鍵を開け、中の小鳥がクルーウェルの指先に飛び乗った。月の光の方へ羽ばたく。光の中心に止まった鳥はキラキラと瞬き、そのまま光は徐々に強く大きく変化する。月の光を纏ったが姿を表すまで凡そ三十秒といったところだ。この瞬間が何とも神秘的で美しい。

小鳥から人の姿に戻ったは裸で、だけれどもうそれを恥じる事もない。何故なら俺が飼っているからだ。裸のまま床に座るに近づき、顎を指先で掴んだ。



「ご機嫌斜めだな」
「まだこの呪い、解けないんですか」
「一生解けないかも知れないな」
「…っ」



呪いをかけられたをたまたま捕らえた。そもそも夜に小鳥が飛ぶもの不自然だし、何よりよろよろと飛び方が頼りない。獣に喰われるぞと、その時は深く考えず捕まえた。触れた瞬間、何か違和感を感じマジマジと小鳥を見つめる。そのまま自室へ戻り同じ光景だ。

小鳥は燦燦と月の光が降り注ぐ窓の下へ赴きの姿へと戻った。助けてください。はそう言った。何故こんな事になったのかは分からない。だけれど小鳥になってしまった。

クルーウェルに縋るは全裸だ。その事に彼女は途中まで気づいていなかったようで、俺を誘っているのかと笑えばようやく気づいたらしい。しゃがみ込み服を貸してくれと言った。そんな彼女を見下ろし、お前は小鳥だろう。そう囁く。小鳥に服は不要だろう。が顔を上げた。奥歯を強く噛み喉を鳴らした。

それからは毎晩のように身を交わしている。最初、は掠れた声で呻いた。先生、やめて。その声がどうしたって劣情を刺激する。どろどろに発情した眼差しでそんな言葉を吐くな。そう思った。



「俺だけじゃ不満か」
「先生だけじゃ退屈だわ」
「この呪いが解けたら、お前はどうする」
「元の生活に戻るのよ」



俺の事などすっかり忘れて。そう思うも言わない。はロッキングチェアーの座るクルーウェルに跨り好きに動く。こちらが犯されているのだ。それなのにやめて。そう言う。先生やめて。俺の上で淫らに快楽を貪りながらそんな言葉を吐き出す。気が狂いそうになる。



「元の生活に戻ってどうするんだ」
「別に、どうも」



だったら俺はどうしたらいい。そんな事は言えない。情けなくてとても言えない。の呪いを解く方法はたった一つ、真実のキスだ。彼女が心の底から愛する相手とキスをする。たったそれだけ。今、はあはあと荒い息の中、舌を絡め唾液を貪るこれではないのか。お前は、俺を愛しちゃいないか。

汗ばむの身体を撫でまわし固く尖った乳首をぎゅっと握る。の膣が締まり痙攣した。



「愛してるか、俺の事を」
「…何それ」
「言えよ、



唇のすぐ側でが愛してると囁いた。そのまま口付けても何も変わらない。何も変わらない。そんな事は、分かっている。の腰を両手で掴み一気に奥まで突き入れる。の腕が絡みつくけれど心は一切近づかず、今日も真実の愛はここにない。それだけの話だ。