狂おしくて僕は君を



  サバナクロー寮は他寮と比べ門限が緩い。表向きに設定されてはいるのだが事実上ないに等しく、その理由はただ一つ。寮長であるレオナが面倒だと一蹴したからだ。好きな時に好きな場所に行くんだよと言って憚らない我が寮長の元、全寮内でも屈指の自由さを保つ。

寮に戻ったジャックは自室に向かう途中でレオナとラギーの会話を耳にした。聞く気はなかったがジャックの向かう方向で立ち話をしていた為に盗み聞きのような形になってしまった。割って入ってもよかったのだけれど、ラギーの声が普段と違ったので躊躇した。



「え?どういう事ですか、レオナさん」
「だから」



レオナは普段の怠そうな口ぶりで話す。がRSAの花形選手に気に入られた事。そいつらが宣戦布告してきたという事。NRCはそれを受けたという事―――――要はが見初められたという話だ。問題はその後の部分で、その宣戦布告に対抗する為、全寮長はを贄とする事に賛成した。儀式は既にディアソムニア寮で執り行われている。レオナは確かにそう言った。



「ガキどもに注意しとけ」
「あー確かに。仲いいですもんねー」



瞬間にエースの顔が過りすぐに携帯でLINEを送るも既読にならない。このままでは居ても立っても居られずにハーツラビュルへ出向こうとしたところ、背後からラギーに声をかけられた。無視するわけにもいかず立ち止まる。



「行かせて下さい、すいません」
「オレは別にいいんスけどね、でも、そんな小さい話じゃないスよこれ」
「…」
「寮長クラスが決議して、レオナさんの話によればもう始まってるんスよ。今更止められない。それでも、行くんスか」
「…はい」
「どうしてスか、何したって変えられねーのに」
「友達なんで」
「友達ねー」
「…」
「知る必要のない事を知らせるのも友達なんスかね。オレはどっちでもいいけど」



そう言うラギーに対し返す言葉は持たず、それでも一礼し走り出す。腕を頭の後ろで交差させたラギーはそんなジャックを見送りやれやれと溜息を吐いた。とても青臭くてこれは、見ていられない。少なくとも俺には。



「おい、ラギー」
「うわ、盗み聞きスかレオナさん」
「殺すぞ」
ちゃんも、人間関係出来ちゃってますからね。厳しいんじゃないスか」
「めんどくせーな」



そう言いスマホを取り出す。レオナは誰かにLINEを送ったようだった。









■■■■■■■■■■■■■■■










目の前にはヴィルがいる。ヴィルはこちらの事を『アタシの白雪姫』と呼ぶ。ふと目覚めた時には既に彼は目の前に佇んでいたし、こちらは紐で拘束されていた。色とりどりの飾り紐はの全身を蛇の様に這う。

両手は万歳の状態で天井に向かい釣り上げられ、左足は膝から曲げた状態で大きく広げ紐で縛られている。右足の爪先は辛うじて床につくかつかないかというところで、そんな状態のを散々とヴィルは犯すのだ。

やめて、どうしてこんな事をするの。涙を流しそう嘆くなど意にも介さず、ヴィルは彼女の身体を隅々まで視姦する。大きく広げられた左足を撫で、その奥の方に指先を滑らせる。

赤く充血したそこ。大陰唇を指先で開きひくひくと蠢く肉の奥を覗いた。あの絶大な魔力を秘めた男に食い破られた膣だ。破瓜の跡がみてとれる。それと同時にじっとりと濡れていた。



「かわいそうにね」



ヴィルはそう呟き口をつけた。やめて、やめて。泣きながらが喘ぐ。



「アンタは無垢で美しくて、誰からも求められてるの。アンタは悪くないわ、確かにね」
「あぁ…嫌ぁ…っ」



指で膣口をじくじくと弄りながらクリトリスを舐めねぶる。抗う事の出来ない性感帯を重点的に責めればの吐息は見る見る内に熱くなり、指先は容易くぬるぬると汚れた。涙を流しながら感じるの姿は美しい。



「だけれどここにいる。アンタはここにいるの。もうどこにも行けない。かわいそうだけれど、今更手放すわけにはいかないのよ」
「あっ、あっ、ん、んんっ…や」



指をぐっと中まで挿れる。ヴィルの指をぎゅうぎゅうと締め付け、幾度も短く達しているようだ。儚く散らされた純潔は遥か過去の話で、既にこの子宮は絶えず疼き膣口がひくひくと動く。指を緩々と動かしながら立ち上がりの唇に触れそうな距離で囁く。



「どうして欲しいの?…」
「…」



こたえないを見てヴィルが指を抜いた。そのまま濡れた指先をの口内に押入れ舌を弄ぶ。



「アタシのものになりなさい、。何からも守ってあげるわ」
「ん、ん…!」



開かれた足の間から滴が零れ落ちる。拘束されたにぴったりと寄り添った。ヴィルの性器がの膣を擦り上げる。待ち構えた感触に全身が痺れる。ひくつく膣口はヴィルの性器が擦れる度に纏わりつく。

どうして欲しいの。ヴィルが再度問いかけ指を抜いた。挿れて欲しい、と言えば終わるのだ。それでも。エースの顔が脳裏を過ぎる―――――

即答しないを見たヴィルは、直ぐにこのままではまだ不十分だと確信する。そのまま拘束を解きを解放した。思いがけない展開に理解が及ばずは床に座り込んでいる。



「また来るわ」



そう囁きの髪に煌びやかな櫛を刺す。そのまま部屋を後にした。


の居る部屋は外から鍵をかけている。彼女は自らの意思であの部屋を出る事が出来ない。ディアソムニアで最初の儀式を済ませた後、深い眠りについたはマレウスによりこのポムフィオーレ寮へ連れて来られた。

与えられた時間は一日。各寮がたった一日の時間でを贄としなければならない。散々とディスカッションを繰り返した結果、勝ちえた二番目という大役だ。絶対に成功させなければならないという自負がある。自室に戻るヴィルは大層不機嫌であり、ルークはそんな彼に声をかけた。



「一体どうしたっていうんだい!」
「あの子、誰かいるみたい」
「…そいつは随分と込み入った展開だね」
「アタシでしくじるわけにはいかないわ。そうでしょう?」



ヴィルはルークを見つめる。



「キミがしくじるだなんて冗談じゃない!そんな事はありえないよ、この僕がいる限りはね」



最高の演出をお願い。ヴィルの言葉にもちろんだ、と答えたルークは、楽しい狩りの時間の始まりだ。そう呟く。楽しみにしているわ、とヴィルも笑った。









■■■■■■■■■■■■■■■










目の前にはリドルに食って掛かるエースと、そんなエースに対しシカトを決め込むリドルがいた。ジャックがハーツラビュル寮に到着した時には既にその状態であり、頭に血の上ったエースをデュースやトレイが止めている。ジャックも慌てて加勢した。ケイトはそんな周囲の様子を遠巻きに眺めていた。



「あのさぁ!あんたらあいつの事、何だと思ってんの!?」
「―――――キミこそ、の事を何だと思っているんだい?」
「はぁ!?」
「彼女はね、ここにいるべきではない存在なんだよ。キミはその事に気付いてさえいないだろう、エース・トラッポラ。だから無闇に近づくんだ。後先を考えずに」



大きく溜息を吐き出したリドルは改めて話し出す。



「彼女の光は明らかにこちら側のものではない。彼らの主張は最もなものだ。ここにそぐわしくない存在。それがなんだよ。そして彼らは宣戦布告をした。マレウス・ドラコニア―――――彼の前でね」
「だからって、あいつはそんなの望んでねーよ」
「何故キミに分かるんだい?」
「あいつの事なら俺は何でも分かる」
「果たしてそうかな」
「なっ」



ムキになったエースがもう一度食って掛かろうとしたらその時だ。入口の辺り、ケイトのいる方向から拍手の音が聞こえ皆、一斉に振り返る。



「tres bien!何て素晴らしい愛の告白だ!」



目前のケイトが何より驚いていたのだが、ルークがいた。一瞬にして空気がざわつく。


「な、なんであんたが」
「僕は愛の狩人だ。獲物を捜していてね」
「は?」
「キミだったんだね、エース・トラッポラ」
「何言って」
「会いたいんだろう、お姫様に」



その矢で見事射抜いて見せておくれ、と焚きつけるルークはに会わせてあげようと囁く。当然エースはその誘いに飛びついた。嫌な予感がする。じっとその様子を眺めていたジャックにケイトが耳打ちした。今、丁度ヴィル君が儀式の真っ最中なんだって。

こんなものは、マトモな話ではない。一から十まで一つとしてマトモな話がない。罠にしたってあからさま過ぎるだろうとエースをとめるが聞かない。だからといって一人で行かせるわけにもいかず、デュースを連れ(デュースはデュースでまったく状況が理解出来ていなかった)仕方なしに一緒にの元へ向かう。ルークに連れられて行くエース達を見ながらトレイがポツリと呟いた。



「いいのか?」
「構わないよ」



リドルは言う。



「想定の範囲内だ」



そう言うリドルは視線一つ上げず、只、携帯を弄っていた。









■■■■■■■■■■■■■■■










連れられたのはポムフィオーレ寮だった。古城を模したその寮の外壁をスルスルと登り空中庭園の部分に辿り着く。ここはポムフィオーレ寮の目玉とも呼べる美しい場所で、辺り一面に色とりどりの薔薇が咲き乱れ、よじ登る部外者を誰彼構わず傷つけていた。例に漏れずジャック達も傷だらけだ。

その庭園はポムフィオーレ寮の中でも最上階部分に存在する為、空中庭園と呼ばれている。空中庭園内で最も高い部分は、ここからしか入る事の出来ない塔部分であり、天を仰げばロミオとジュリエットの名シーンを彷彿とさせるバルコニーが見えた。

石造りのそこ、バルコニーの奥辺りで人影が動きエースが叫んだ。。人影はびくりと身を震わせ少しの間動かない。腕に刺さった薔薇の棘を抜きながら、どういうつもりだとルークを見つめる。恐らくルークはジャックの視線に気づいている。だけれど何も言わない。果たして、何の為に。

エースの見つめる先には出てきた。今にも泣き出しそうな顔をしている。



!大丈夫か!?」
「エース…」
「お前…嫌なら嫌って言えよ!」
「だ、大丈夫だから!ごめん。心配かけて」



は泣きそうな表情のままそう言う。



「訳わかんねー事に巻き込まれて、大丈夫じゃねーって!お前関係ねーだろ」
「大丈夫だから!」



石の間から僅か顔だけを覗かせるは頻りに大丈夫と繰り返す。そんなわけがない、そんな顔をしてそんなわけがない。お前のそんな顔、俺は見た事がないのに。の背後にヴィルが現れた。こちらを見下ろしている。



「ムシュー・ハートの気持ちは伝わったかな?」
「大丈夫だから、信じて…」



は幾度も大丈夫だからと繰り返し、そう言われれば言葉が出ない。腕を伸ばせどには届かない。今にも泣きだしそうな表情ではそう言うのだ。

あいつは遥か彼方にいる。茨に彩られた塔は行く手を阻みよじ登る事は困難だ。こちらを見下ろすヴィルは、茶番は終わったようねと呟きと共に塔の中に消えた。



「彼女は自らの意思で協力を願い出た。我々に口出しをする理由はないんじゃないかい?キミも見ただろう、彼女の崇高な決断を」



ルークの言葉に返す事が出来ない。塔の上を見上げ言葉を忘れたエースを連れ、ポムフィオーレ寮を後にする。ルークにはありがとうございましたとだけ告げた。