優しい嘘に溺れてしまいそう



   レオナさんの身の回りの世話は最早ルーティン化されている。朝は起こさないといつまでも眠っているし、着替えだってセッティングしておかないと部屋から出て来やしないし(というより、自分で準備をするという習慣があの人にはないのだ)あれやこれやと手のかかる人なのだ。

だけれどそんな暮らしもそう悪くない。NRCに来るまでの生活に比べれば格段に楽だし、ここでは多少上手く立ち回るだけで両手に余る程の利益を手にする事が出来る。

この世は弱肉強食で、生まれ持って力のない奴は頭を使いどうにか生きていかねばならない。オレは上手く立ち回っているタイプだと、思っていた。



「レオナさ―――――」
「レオナならいないわよ」
「…」
「すっごい嫌そうな顔」



ここ最近、レオナさんの部屋にがいる事が増えた。基本的に朝起こす際に遭遇する。って事は夜、レオナさんが自室に戻ってからわざわざ来ているんだろう。まったくご苦労な事だ。

は人間の癖にのこのことこのサバナクロー寮に顔を出す。いや、NRC内を平然と闊歩する。魔力もなく生き物としては最弱の癖に平気な顔をして堂々としている。

レオナさんが気に入る理由も分からなくはない。派手な顔立ちに我儘な立ち振る舞い。やけに男馴れした素振り。遊ぶ相手にはもってこいだ。

今だってオレがいるってのに、半裸にシーツを巻き付けただけの姿でベットに寝そべりながら、レオナさんの脱ぎ散らかした服を片しているこちらを眺めている。っていうか、レオナさんの服を持ち上げた瞬間、この女の下着が落ちて来て軽く鬱だ。



「あんた、本当に私の事、嫌いよね」
「そうッスね」
「珍しいんだけどなぁ、男に嫌われるって」
「気づいてないだけじゃないスか」



オレは確かに、このと言う女が嫌いだ。



「レオナさんも物好きッスね、あんたみたいなの相手にして」
「リッチだからねー」
「あんただってどうせ金目当てでしょ」
「あんたは?」
「!」
「あんたも似たようなもんじゃないの?」
「はーマジ、バカ女。本当ムカつくわ」
「ムキになるって事は、図星なの?」
「確かにオレも打算はしてるけど、だからってそれだけじゃないっての」
「あたしだってそうだけど」
「!」
「だから、レオナもあたしを呼ぶのよ」



まだレオナさんに心底お熱の方が可愛げがある。何せ片や一国の第二皇子、本気で好きであっても叶う道理はない。そんな女であればまだ溜飲も下がるというのに目前のこの女は都合のいい部分だけを掻い摘み楽しむだけで、その様に腹が立つのだ。きっとレオナさんだって然程だ。だから、



「お互い一人だけってわけでもないし」
「はー」
「あんた気づいてた?最近、結構実家とやり取りしてるみたいでさ」
「…」
「潮時かなって思うんだけど」



だからってオレは御免だと返せば、あんたじゃなくても他にいるわと笑う。何も考えていないような素振りで後先を見据え心を打算で清算する。心よりも大事なものは生きる事だ。こうして朝方に一人で目覚め漫然と他人の天井を眺める。その状態を否定もせずにだらりと垂れ流しオレが来る事を見越す。

この悪態塗れの会話でさえにとっては予定調和だ。だからオレはお前みたいな女が大嫌いだと溜息を吐く。知ってるわと、が笑った。