アルカイックスマイル



   は、そもそもレオナさんのグルーピーみたいな女で、素性は知れないが目を惹く見た目をした、所謂それ用の女だった。ああ見えてレオナさんは遊ぶ女の出自はきちんと把握していて(何せ第二皇子だ)それなりにいい家の出でなければワンナイトから先に進む事が出来ない。どれだけレオナさんがいいな、と思っていてもレオナさんの手の及ばないところから阻まれるのだ。

まあ、元々そんなに気持ちのないレオナさんなので自分を好きな女がまるで流水のように流れていく。そんな中に、はいた。目を惹いた理由は恐らくそこだ。美しいが毛色が違う。正直、こちらになんて目線一つもくれない女だったが、そこが逆に良かった。

はレオナさんのワンナイト相手から抜け出す事が出来ないのだとすぐに気づいたようだ。只、そこからの対応が余りに手練れで、なあなあと済し崩しにしようとするレオナさんを軽くあしらい、距離こそ近いが触れない。人前でそんなに前戯染みた真似をするなよと口を出したくなる程にいちゃつくがそこから先には決して進まない。女のプライドが見え、こちらも目が離せない。

レオナさんも満更ではなかったようで(楽しかったのだろう)パーティにが顔を出す度、何だかんだとちょっかいを出していた。



「…レオナさん、捜してましたよ」
「!」
「何してんスか、あんた」



こんなとこで。宴の中心で色んな女にちやほやと持て成されているレオナさんは、そんな様でもの所在を気にしていた。他の女達がどう思っているのか恐ろしくて聞く事も出来ない。捜して来ますよと言い、宴を抜け出す。そもそもこの宴だって学園に詳細を伏せ開いているのだ。

はっきり聞いた事はないのだけれど(というよりそんな事を考えている何て学園長も思っちゃいないのだ)この有様を目の当たりにしたら腰を抜かすんじゃないかなと思う。だってあれ、もう完全にハーレムだから。

レオナさんにとっては当たり前の光景なのかもしれないけれど。まさか他寮に行っちゃいないだろうな、と思いながらサバナクロー寮の敷地内を歩き回る。は、レオナさんの部屋にいた。



「さっきから私を見てたわね」
「!」
「いいや、違うわね」



あんたはずっと私を見てたわね、ラギー・ブッチ。
レオナさんのベットに座り煙草を吸っているは多分、初めてこちらを見た。ラギー・ブッチという男をその目にした。レオナさんの嫌がる甘い匂いのする煙草を吸いながら(ていうかそれ本当勘弁して貰えないッスかね、俺が片付ける事になるんで)こちらを見上げるの目。



「…や、何言ってんスか」
「いいの?」
「ちょ」
「こんなチャンス滅多にないわよ」



の手がラギーの左手を掴み、そのままレオナさんのベッドに倒れ込む。こんなチャンスって、どんなチャンス?確かに今、レオナさんは宴の真っ最中でここには戻って来ない。オレがあんたの事見てたってのも図星だし、今まさにオレがあんたを押し倒してるのも事実。アンタが初めてオレを見た理由は知らない。多分だけど、気まぐれなんだろう。

何がいいのか悪いのか、そのやり方が合っているのかさえ分からないまま、その身を弄り感触を確かめた。別に初めてでもないはずなのにやり方さえ分からなくなって、だからっての反応を見るけど彼女は詰まらなさそうにこちらを眺めるだけで気持ちばかりがはやる。気持ちよさも何も覚えちゃいない。

気づけばはいなかったし、こんなオレを起こしたのはレオナさんだ。女を連れたレオナさんは、テメエ俺のベッドで寝てんじゃねえと怒りながら女を連れて風呂へ向かった。その間にシーツを変えベットメイキングを済ませ部屋を後にする。きっと、レオナさんには知れていたんだろう。

知らない間に登録されたの番号からは時折連絡が入る。着信がある度に心躍り、その都度こちらを見透かしたようなレオナさんは『あいつはやめとけ』そう言うばかりで埒が明かない。たまにレオナさんと一緒にいる姿を目にして、もう気が狂いそうな程嫉妬したり、そんな事の繰り返しは永遠に続くと思っていた。



「だーからやめとけって言ったろ」
「…レオナさん」
「ああいうのは、よくねェんだよ」
「…」



永遠に続くと思っていたのに、終わりは突如訪れた。からの連絡が途絶え丸二月。初めてこちらからかけるも『現在使われておりません』メールも宛先不明で戻って来た。何だかやけにショックでふさぎ込んでいればだ。レオナさんが声をかけてきた。



「大方、新しいターゲットでも見つけたんだろ」
「…」
「ありゃあ、金にしかなびかねェ女だ。忘れろ」



そう言いポンポンと頭を撫でるレオナさんに何も返せず、何だよそれ。そんな爛れた愛も何もない世界。



「後、今度俺の部屋でセックスしたら殺すからな」
「すんません…!」



当然、レオナさんには御見通しだったわけで、こちらも立つ瀬がない。俺ら獣人は耳と尻尾に感情が露骨に現れちゃうから、平気な振りをしたくったってペタリと倒れた耳は倒れたままだし、どうにもならない。

思い出すのはレオナさんの部屋でこちらをじっと見据えたの目。オレの心なんて置いて他の男の元に行けよバカ女。そう言えども心なんて盗まれた方が悪いんだろうと、レオナさんは言うんだろう。