目立ちすぎるその帽子



  私のライフワークに付き合ってくれないか、と声をかけられたのは昨日の事だ。授業も終わり一旦、オンボロ寮に戻ろうかとしていた所、珍しくもルークから声をかけられて驚いた。

たまたまトレインに資料を資料室に戻しておいてくれと言われていた(というかグリムも言われていたはずなのだが上手く逃げられてしまった)が抱える大量の資料が急に軽くなったと思えば隣にルークがいたわけだ。二人で資料室に向かう事になった。

ルークは相変わらず彼独自の褒め言葉でこちらを讃えて来る。彼の言いたい言葉は半分も理解出来ないのだが、それとなく相槌を返し話を繋いだ。



「この森って、ポムフィオーレ寮の敷地なんですか?」
「そうだよ」
「鬱蒼と茂ってすごいな…」
「美しいだろう?」



その時に誘われたのだ。明日、私のライフワークに付き合ってくれないかな。ライフワークって狩りですか?がそう言えばご名答、と嬉しそうに笑った。特に予定もなかった事だし、いいですよ、と軽く返した。狩りは早い時間からやるらしく朝の5時に迎えに行くよと告げられた。随分早いと思ったが了承してしまった以上、断る事は出来ない。わかりましたと返しオンボロ寮へ戻った。

グリムには早朝から用事があるとだけ告げ、普段より早くベットに入る。ルークは5時丁度に迎えに来た。ギリギリ間に合い内心ほっとした。

そのままポムフィオーレ寮まで向かい、寮を囲む様に鬱蒼と茂る森の中へ向かったのだ。早朝の森の中は薄っすらと靄がかかり何とも幻想的な雰囲気を醸し出していた。



「ほら、見て御覧。あそこに野ウサギがいる」
「本当だ」
「息を止めて」
「!」



野ウサギからルークに視線を動かした瞬間だ。彼は素早く弓矢を放ち野ウサギを射止めた。狩りについて来たとはいえ、目の前で獲物を仕留められた事実に息を飲んだ。



「えーっと、あの、ジビエとか食べるんですか」
、君は好きなのかい?」
「ちょっと癖が強いからなぁ」
「確かに」



一瞬視線を外した。確かルークは射貫いた野ウサギを取りに行っていたはずだ。視線を戻す。いない。辺りには濃い霧が漂い始めていた。すぐに一寸先も見れなくなる。



「あれっ?ルークさん?」
「どうしたんだい、
「どこにいるんです?」
「ここだよ」
「霧で全然、」



見えない、と言いかけたの頬を弓矢が掠った。すぐ後ろの木に突き刺さる。突然の事に息を飲んだ。これは、



「危っぶな…」
「おや、外したかな」
「えっ?」
「狙った獲物は逃がさないはずなのに」
「!」



何故かは分からないが反射的に身を屈めた。その刹那弓矢が背後の木に又しても突き刺さる。軌道は丁度、の頭があった場所を貫いていた。殺す気なの。まずそう思った。鼓動が破裂しそうになりながらその場にじっと蹲る。しかし、何故。答えは出ないまま、目と鼻の先にルークの爪先が見えた。呼吸も忘れゆっくりと見上げる。



「冗談さ、トリック・スター!」
「…」
「さあ、手を取って」



そんなところに蹲っていては折角のしなやかさが台無しだ。そう言いながらこちらに手を伸ばす男を見上げる。この手を取って、そうして。この森から生きて出る事は出来るのだろうか。