ガラスの柩に君は押し込められて



   何時、何故。この世界に来てしまったのかは分からない。未だに何一つ理解出来ないでいる。それよりも恐ろしいのはここに来る前の記憶が確実に薄れているという事だ。思い返し懐かしみ泣く事も出来ない程に記憶は削られる。ストレスの多い生活のせいだけではない。日々与えられる薄緑色の液体の仕業だと薄々気づいている。

兎も角、どういった経緯でこの世界に来てしまったのかは分からないのだが気づけば小瓶の中だった。自身の置かれた状況がまるで理解出来ず半狂乱で泣き叫ぶも、おかしな程に誰も気づかない。叫び疲れ眠ってしまった。

次に気づいた時には小瓶の外だ。だけれど四肢は拘束されていた。視界に飛び込んで来たのはこちらを覗き込む仮面の男で、驚きの余り声も出ない。部屋は薄暗く、男の顔くらいしか見えない状況だ。奥歯が震え上手く声が出ない。



「初めまして」
「…」
「貴女、お名前は?」
「あ、の」



かぎ爪が頬を滑る。



「私はディア・クロウリーと言います」
「…っ」
「貴女の、お名前は?」



かぎ爪の先が僅かに刺さりプツリと丸く赤い血が浮かぶ。震える声でです、そう呟いた。男はずい、と顔を近づける。仮面の眼部分から覗く目はじっとこちらを見ている。震える声でです。そう呟けば彼は酷く興奮した面持ちで名を復唱した。

さん!素晴らしい名ですね!何と響きの美しい美しい名でしょう!クロウリーは感極まった様子で一人こちらの名を叫び室内を歩き回っている。



「助けて」
「何ですって?」
「お願い、助けて」
「何と!さんあなた、何か勘違いなさってます」
「…」
「私があなたを傷つけるわけがないじゃないですか」



こんなに愛しているのにとクロウリーは言った。その言葉が余りに恐ろしくより一層泣きだしてしまったの唇にクロウリーは薄緑色の液体を流し込む。泣いている彼女は咽て吐き出してしまうのだが、飽く事無く幾度も流し込んだ。徐々に意識がぼんやりと薄れて来る。

次に目覚めれば又、小瓶の中だった。 クロウリーが言うには、昔失った最愛の女と顔が瓜二つだったらしい。彼女の命日に突如現れたを咄嗟に捕らえたのだと嬉しそうに囁いてくれた。

昼間の間はこうして小瓶の中に閉じ込められている。学園長室にも常に同行しており、監督生がいる時にはどうにかして知らせようと小瓶の中から叫んでいるのだが、魔法のかけられた小瓶は完全に防音処置を施されており聞こえない。

その都度、夜中にあの部屋で四肢を拘束されたまま仕置きを受ける。まだ私を愛してくれないんですねえ、困りましたねえ、等と言いながらクロウリーは見た事もないグロテクスな器具でこちらの身を苛む。言う事を聞かなければ必ず仕置きが待っている。

所謂普通の性行為は余り好まないらしく、これまで数えても数回程度だ。その代わりじっくりこちらを責め苛むやり口を好む。が耐えている姿を見るのが好きなようで、固定された性惧によりひたすら責められ、そんな姿を椅子に座ったクロウリーが延々眺めるというプレイがお気に入りのようだった。

連日のようにその身を貪られ、の身体は確実に熱を帯びている。同じ時間に当たり前のように強い快楽を与えられると身体はそれを覚えてしまう。最初の頃に比べると明らかに反応もよくなっているのが自分でも分かる位だ。焦らされるともっともっとと、浅ましく腰を振ってしまう。そんな自分が許せないのに耐えられない。

クロウリーから強制的に与えられる快楽に染まってしまったある日の事だ。膣内に挿れられた危惧を革のベルトで固定し延々苛まれ、は何度も何度も達した。台の上で浅ましく四つん這いになり快感から逃れられず身を捩る。波の様に襲い来る快楽のせいでビクビクと跳ねる身体を止める事が出来ない。

気づけば全身汗にまみれ気を失っていたようだ。そんな中、何故か小瓶にも戻されず、仕置き部屋の鍵も開いている事に気づいた。クロウリーの姿はどこにもない。膣内に挿っている器具はそのままだが停止していた。

恐る恐る扉に近づき初めてその部屋を出る。逃げ出したいがどこへ行っていいのか分からない。暗い廊下を右往左往と歩き回り、上階へと続く階段を発見しゆっくりと進む。



「…!」



階段を上った先には自分と同じ顔をした女の写真が山と飾られていた。これがクロウリーが言っていた女か、と思い眺めるが違和感に気づく。写真の女は複数いる。似ているが別人だ。一番古い写真の女は笑顔だが、新しくなっていくに連れ恐怖に歪み畏れ泣いている。



「彼女はあなたと同じ人の子だったんですよ」
「ひっ」



突然話しかけてきたクロウリーに驚き、手に取っていた写真盾を落としてしまった。



「人の子はとても美しく、そうして脆い。あなたたちはすぐに死んでしまう」
「クロ、」
「でもいいんです。あなたを失ってもこうして巡り合える」
「違」



クロウリーが器具のスイッチを入れた。膣内に佇んでいた器具が突然激しく動き出し思わず膝を突く。やめて、お願いやめて。が叫ぶ。



「これはお仕置きですよ、さん」
「いやっ、やだぁっ!」
「勝手に部屋を抜け出して。どれだけ心配したと思ってるんですか」
「止めてぇっ!!」



私と似た顔の女達はこんな痴態を幾つもの眼で眺めている。その視線から逃れたくて近くの壁に背を付くが、膣内の振動が邪魔をする。両膝を立て、無意識に足が開く。息も絶え絶えに喘ぐの前に跪き、クロウリーが口付けた。



「だって、私はとっても優しいので」
「…!!!」



立ち上がり靴の先での股間部分をグッと押し込んだ。激しくうねる器具が子宮口を押し潰し隙間のないそこから大量の液体が溢れ出す。



「皆さんに御覧頂きましょうねぇ、さん」
「やめ」
「我々がどんなに愛し合っているか」



同じ顔の女達もきっと同じような目に遭っていたのだ。そう思えども与えられる快感の量は余りにも多すぎる。こうしてこのまま、快楽の底に沈んで死んでしまうのだろうか。