いつだってあと少し手が届かない



   カリムが監督生を好きだという事に気づいている。あれは嘘を吐けない性質だし、よくも悪くも明け透けだ。割と早い段階でカリムは監督生―――――に対し恋に落ちた。カリムが異性を意識するのは珍しい事で(カリムに対し異性が宛がわれる事はお国柄よくありはしたが)すぐに気づいた。

それよりも前にが自身に気があるだろう事に気づいてはいた。他寮の生徒とも仲が良く、正直初見の印象は互いによくなかったはずだ。好意を持つ理由もきっかけも分からないが(まあ、基本的に恋心なんてそういうものだ)こいつは俺の事が好きなんだろうな、と単純にそう思えた。

だけれど特別な言葉を直接伝えられたわけでもないし、そういう雰囲気になりそうな場面は極力避けている。は様子を伺っているし、どうやら闇雲に飛び込んで来るようなタイプでもないらしい。

傍から見ても誰もがすぐに分かるような好意を一心に受ける生活は悪くない。に好意を抱く寮生からの嫉妬交じりの視線や探りの言葉なんて何より甘美だ。だけれどの好意は受けない。俺は何も知らない。

恋する女ってのは死ぬほど残酷で、はカリムに俺の事が好きだと相談をしている。そんなの、どんな気持ちで聞いているんだよと思うが言わない。に呼び出されウキウキ気分でオンボロ寮へ向かったカリムがこの世の終わりみたいな顔をして戻って来た時に気づいた。気づいたというか、その足でいきなりの事をどう思ってる?なんて聞いて来るものだから気づかざるを得なかった。

どうも何も、なんとも思っちゃいないと返した。に対してもカリムに対しても気づいていない振りを続ける。その心は?お前が好きなんだろう、と返し好きにしろよと告げる。丁度星送りの前日だ。

もカリムもこのタイミングで切り出したという事は、星に願いでもかけるんだろう。だけれど内心、確信を得ている。あいつはカリムを選ばない。何故なら俺を愛しているから。なんの根拠もない話だ。こんな馬鹿げた優越感なんて何にもならない。

そうか。そうだよな。そう言い笑ったカリムを見つめる。あいつの欲しいものを、俺が手にするわけにはいかない。










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星送りの日、各寮生に願いを聞いて回るスターゲイザーを前にそれなりの願いを伝える。予報では天候が崩れると言っていたが、イグニハイドが裏技を使い雨雲を吹き飛ばしたらしい。相変わらず手段を選ばない奴らだ。案の定カリムは姿を消した。空からは嘘みたいな流星が降り注ぐ。



「相変わらずバカですねぇ」
「!」
さんなら、あちらでカリムさんと一緒に話をしてましたよ」
「そうか」
「まったく、不毛な」



アズールは呆れたように言う。



「意味がないでしょう、こんな馬鹿げた三竦みなんて」
「お前らには理解出来ない道理があるのさ」
「とは言え、絶対に自分の元へ戻って来る自信がおありなんでしょうね」
「…」
「万が一、そうでなかったらどうするんですか」
「その時はその時さ」
「どちらも手に入れないんですか?」
「そんな星の元には生まれてない」



人には役割がある。どちらも手に入れる役割は俺じゃない。恋心なんてどうにでもなる、何色にでも染まる淡いものだ。弾けて飛んでもくすみ消えてもいい。

星は燦燦と滑り落ちる。星に願いをかけるなんて馬鹿げた迷信ですねとアズールが呟いた。