君の想い ここに残っていた
目の前でが泣いている。もう、これは号泣を越えた絶望というヤツで、この世の終わりを迎えたかのような深い悲しみだ。その悲しみを隠す事無く曝け出している。
夏油の一件を聞いて顔面蒼白になったのは別にだけではないのだけれども(こっちはまあ、うわ、マジか、くらいのものではあったが)その目で見るまで信じないなんて急に言い出したのには参った。
そんな言い方したら共犯みたいじゃん。共犯とまではいかなくても、何かしら事情を知ってるんじゃないかと勘繰られる。まあ、あの五条も初耳だったみたいだし、夏油が何かしら事を起こす時にを仲間に引き入れるってのはマジで考え難い。
はこの学園創立以来の才女で、それこそ五条と同世代の我々は奇跡の世代と呼ばれているのだ。五条のように天賦の才に恵まれたが為にその他の大事な部分がまったく欠落しているようなクズではない。
御三家程の力はないが古くから伝わる述師の家系の血を引いた女で、何よりその見た目が尋常でない程美しい。いや、五条もそうなんだけどはそこにいるだけでまるでお人形さんのような儚さと美しさを持つ。いや、こんなまどろっこしい言い方じゃなくて、京都校でも滅茶苦茶人気で、23区内歩けば絶対スカウトされる、そのくらい美人。これで分かんなきゃもう何言ったって分かんないって。
それに性格も嘘でしょってくらい温厚で誰にでも優しくて声一つ荒げる時がない。育ちの良さが出過ぎてるって感じで、本当五条お前何なのって多分みんな思ってる。
「あんた男の趣味悪いって」
が夏油の事を好きなんじゃないかな、とは薄々気づいていた。を前にした男達は基本、男の顔になる。あの五条だって例外ではないのだから大したもんだ。そんな中、まさかあの夏油が抜け駆けをしていたとも思えない。新宿で会った時の様子を聞かれ、別に普通だったよと返す。
「いいじゃん、あいつに会ってたら殺されてたかもしんないよあんただったら」
「元気そうにしてた?どこも怪我はしてなかった?」
「あんなやつ忘れちゃいなよ。もう二度と会えないんだからさ」
そう憎まれ口を叩きながらも腹の中ではを泣かせる夏油が許せないでいる。あんなクズのせいでが泣く事が許せない。
だからろくでもない男なんだって。をこんなに泣かせるなんてろくでもない男だって。私ずっと言ってたじゃん、あいつらはマジでバカだって。本当ムカつく。あんたにはもっといい男いっぱいいるって。なんであんなバカを好きなの。
夏油はの気持ちを知っていたのだろうか。それは分からないが、さめざめと泣くを見ると何とも言えない嫌な感情に侵される。は夏油の事を思い泣いている。どんだけ甲斐性のある男なのよ。バカじゃん。
これは単に、あんな奴の事で悲しんで欲しくないだけなのだと分かっている。そうして、これだけ近くにいる私と言う人間はの悲しみを癒す事が出来ないのだ。