何故この男はこんな事をするのだろう。

もうそんな事をぼんやりと、そうして漠然と考えるしかないわけだ。
に出来る事はその位しかない。
肢体は既に思うように動きはしないし
(あの執拗な攻撃は決して命を絶たせる事を目的とはしていなかったのだ)
XANXUSは終始笑っていた。僅かに。口元だけで。
血が混じり視界は酷く悪くなっていたにも係わらずXANXUSの顔だけは見えていた。
残像になっていたのかも知れない。どうでもいい。

ふと視線を泳がせれば物好きな奴らが
やれやれといった表情を引っさげ傍観している。
一人と視線が合う。王冠を頭に乗せた子供だ。
最も愉しんでいる傍観者の一人でもある。
あんたみたいな子供が見るモンじゃないのよ。
視線に含まれていただろうか。

只一人視線の鋭い男、髪の長い男だ。
その男一人が毎度不愉快そうな表情のまま途中で姿を消す。
こんな中にもマトモな男がいるのだと感心したものだ。
XANXUSの掌が の顔を抑えた。
どこを見ている、そんなところか。
指の付け根を舐めれば爪が頬を刺した。


「・・・っ痛」


この男は勘違いも思い違いもしていない。
分かっていて無理に挿れる。
肉を裂く感触が好きなのか痛みを与える行為が好きなのか。
どちらもだろうか。まあ最終目的は分かっている。
陥落させたいのだ。ひれ伏させたいだけだ。
自尊心を奪い奴隷、否家畜か。空っぽの入れ物にしたいのだ。
分かっているから既に は完全なる放棄をしているにも係わらず
一体何が足りないというのだろう。
どうして執拗にXANXUSは求めるのか。何を求めるのか。

徐々にXANXUSの目が光を、ギラついた眼差しを失う。
この奇妙な儀式で果てる者は誰一人おらず、 が僅かに開放された次の瞬間には
XANXUSの手が を引き摺る音が響く。
結局後から再度やり直すのならばやはりこれは儀式なのだろう。
それにしても今回は酷く痛めつけられたものだ。
XANXUSの手を払う事も出来ずほぼ動かない身体を任せるしか術がなかった。







どうも痕が残る事は許せないらしいXANXUSは
寝具に放り出した の背に何かしらの薬を塗る。
気遣いや優しさの類ではなくメンテナンスだ。
この薬は酷く沁みる。 が小さく呻けばXANXUSの指が髪を梳いた。
このギャップが総毛立つ程怖ろしい。この男の胸中がまったく読めない。
確かにXANXUSの指先はやけに優しく故意も悪意も感じ取れないのだ。


「お前は何度死んだかな」
「・・・何?」
「俺はお前を何度殺しただろうな」


XANXUSの声はやけに響く。今の発言は特に響いた。


「早く殺して」
「は、」
「あんたあたしを殺したいんでしょう」


そんな を、顔は見えず、それでも背を見る。只見ていた。




の泣く顔だ。涙。それをまず欲した。
どんな顔も見たかっただけだ。喜怒哀楽の全てを。
だから全てを与えた。
それでも自分が思い描いたものが落ちてこず苛立ちだけが募った。
いつならば泣くだろう。死んでしまえばそれは叶わない。
所詮現状はまやかしだ。この女の、 のあらすじが存在しない。
物足りなさはそれだと知っていた。掻きむしるような執着も知らないで





「・・・お前はもう逃げられねぇ」


それだけが真実のようで柔らかな寝具は を吸い込む。

調子に乗った結果って幾らも出てくる。
こんなでいいのかと。失礼ではないのかと。