天秤

果し合いの後燃え盛るあばら家をぼんやりと見つめていた。
漆黒の中空へ舞い上がる火花がやけに美しく に教えたのだ。
パチパチとまさかの拍手喝采、脳内で。
何故だか挑まれたのだけれど
大した手応えもない格下相手だった為数分で片はついた。
は寝ていたのだろう。余り明確でない視線のまま炎の向こう側にいる。


「どうしちゃったの?これ」
「灯りでも倒れたんじゃねぇか」
「綺麗ねぇ」


とムゲンの間には切り捨てられた男が伏している。
炎はそんな男にも確実に忍び寄っているのだ。
まだ温かい体躯に赤みが増した。
そんな男に躓きそうになりなった を見ながら笑った。


「・・・何持ってんだよ」
「そこに落ちてた」


ムゲンの隣に座り込んだ は錆びた天秤を持っていた。
恐らく置物か何か、西洋のものに違いはない。
死んだ男の物だったのだろうか。
の手中からそれを半ば奪い取り炎に翳す。
よく分からない文字で何事か記してあるようだがやはり分からず、
ジンに聞けば分かるのだろうかと思いもしたのだが口には出さず。
詰まらねぇと呟き放り投げる。炎が待ち構えていたように飲み込んだ。


「あっ」
「捨てちまえ、気味悪ぃ」
「まだよく見てなかったのに」
「死んだ野郎の品なんざよ、一緒に燃やしちまった方がいいんだよ」
「そうなの?」


疑わずこちらを見る。いつもそうだ。誰の話も疑わない。


「祟られちまうぜ」
「・・・ヤメテよね」


ジンやふうに黙って散歩に出た途中の出来事だ。夜中の。
他意がなかっただなんてどの口が言えるというのだろう。
そうしてそんな誘いにのこのこついて来たのだから
何も知らなかった、なんて言い訳も通じないのだ。
ムゲンは只誘い、そうして は只ついて来た。


「なぁ」
「何?」
「このまんま逃げちまうか」
「えぇ?何処に」
「何か、遠く」


どこでもいい。
そう呟いたムゲンに馬鹿ね、そう告げた は黙って手を握る。
何故だかふいに今こそ逃げ出したくなってしまったムゲンは
それでも の手を振り払う事が出来ず顔を背けた。

実は最近お題にそってみよう、だなんて思ってまして
まあそういう使い方なの?と思いつつも・・・
ムゲンとならどこへでも逃げるわ。