尽くしたぶんの見返りはいらない

一度視線を上げ見据え、それで又伏せた。
毎度ごとに下ろされる瞼がまるでシャッターのようだと思えたからだ。
コマ送りのを写す。彼女が笑い泣き、そうして怒る様を焼き付ける。
いつでも都合のいい時に思い出せる様に。その必要があったからだ。
何故だか理由は分からないがは側にいないのだから。
何故だろう。こんなに愛しているというのに。
その理由だけが見つからないままなのだ。
分からないからそのままにしている。そのままにしていた。


「あんたがこっちに来たらどうよ、雲雀」
「どうして」
「そんな目で、見てるからよ馬鹿」


確かにはそう言ったと記憶している。
夕闇に辺りが包まれた時間帯に。
少しばかり呆れたような彼女の眼差しが五感の何れかを刺激していた。
苛立ったように紫煙を吐き出す唇、そうして踏みつけられる吸殻。全てを記憶した。


素性が分からないのはお互い様だが雲雀自身よりも世界が広いのだろうと知っていた。
だから余計に手を伸ばしたのだ。
消える事は容易い。そんな雲雀の見えない手をは確認した。


「ねぇ僕ちゃん、あんた一体どうしたいの」
「分からない」
「言わなきゃあたしだって分からないわよ」


どこかでクラクションが鳴っている。
意識を戻せば街の騒音がやたらと耳に届くもので、だから雲雀は閉じる。
伸び行くの影に飲み込まれるように。
まったく、これは大した不審者だ。
この雲雀のテリトリーである校舎にも、雲雀自身にとっても。


雲雀の言葉を待っているような、
それでいてそんな雲雀の態度に苛立ちを隠せないでいる
諦めたように溜息を吐き出す。それを序のように飲み込んだ。
彼女の携帯が鳴る。お別れの時間だ。


「あんたにあたしは捜せないわよ」
「・・・」
「ねぇ」


そんな顔しないでよ。
困った表情のが雲雀の頬を撫でた。温い感触が鈍く伝わる。
感覚が麻痺しているのだろう、半分くらいは。
この手が離れれば共にも離れる。
又脳内のフィルムが連続再生を開始するまでだ。
無言のままじっとを見つめた雲雀は微かに唇を噛み締めた。
気づかれないように。


「何、我慢してんのよ」
「行くなって言ったらあんたはどうする?」
「丁重にお断りするわよ」
「だから言わないんだよ、僕は」


一瞬間を置き笑い出したを見ても何も思わない。
どうせいいようにあしらわれるだけだと知っている。
まだ、今のところはそれで許すさ。


「可愛い事言うわね、あんたも」
「うるさいよ」
「ねぇ恭弥」
「名前で呼ばれるのは、嫌だ」


咄嗟に口をついた言葉がそんな程度のもので、だから雲雀は尚更やり切れなくなる。
そんな事をされれば許せなくなるからだとも知っていて、いやしかし。
余りにも子供染みている。


「早く行きなよ、
「まだまだ僕ちゃんねぇ、あんたは」
「うるさいよ、
「褒めてるのよ、これでも」
「怒るよ」
「もう怒ってるじゃない」


もう一度の携帯が鳴り、そこでようやく彼女は姿を消す。
惑わされずにすむという感覚と抗い難い欲求が交差した。


許して許して、そうしていつの日か許せない場面が訪れる。その日を待つ。
頭の中のフォルダをで埋めながら。
尽くしたぶんの見返りはいらない。そんなものは必要がない。
好きでやっているのだから、見返りなんて求めない。


「だから―」


の自由、翼を頂く。

最近ちょっとした理由により
リボーンが増殖中なんですよね。初雲雀。