馬鹿が、俺は何も持っちゃいねぇよ。
足元ばかりを見ていれば頭上にそんな言葉が流れは少しだけ笑った。
何もあんたに求めちゃいないはずだけど。
そう言えば俺の勘違いかと呟く。
余りに正直だと思う。この黒澤という男は(誰と比べるわけではないけれど)比較的正直だ。
馬鹿を見るほどではないが。正直なのか、若しくは感情を隠せないだけなのか。
嘘を吐くのは下手なのだろう。そうして気持ちを伝える事も下手だ。そこは言わない。
「ちょっと和クン」
「誰だよ和クンってよ、つか、和って呼ぶな」
「和光」
「それもどうだかな・・・」
「あんた、一体何て呼んで欲しいわけ」
夜の公園なんかで話をしている理由は見つからない。
明日は仕事だし、この男も学校だろう。
まあ、真面目に行っているとは到底思えないけれども。
互いに煙草を吸いながら、はブランコに緩く揺られ黒澤はゲートに腰掛けている。
何をしているのだろう。
の仕事先に黒澤が顔を出し、
仕事が終わるまでどうやら待っていたらしい。夕飯をたかってきた。
「あんたね、あたしはあんたのお母さんじゃないのよ」
「お前みてーな母ちゃん要らねぇよ」
「あたしだってあんたみたいな子供要らないわよ」
今日はやけに雲の流れが早い。
ぼんやりと空を仰げば星と月を雲が横断している最中だ。
明日は嵐になるのかも知れない。吐き出した煙も煽られるように姿を消す。
「あんた、暇なの?」
「あ?」
「・・・もう帰らない?」
「・・・いいんじゃねーの」
「あんた、まだここにいるの?」
一人で。
そう言えば頷く。
誰かと待ち合わせでもしているんだろう、そう考え立ち上がった。
□
■
□
送ると言う黒澤の言葉を押しのけ一人で帰路についたは
今更ながら己の発言に後悔し始めていた。
先ほどから足音がついて来る―徐に携帯を取り出し着信履歴から適当に見繕う。
このままの状態で一人暮らしのアパートに戻るわけにはいかないだろう、
それは余りにも無防備過ぎるし馬鹿過ぎる。
「ちょっと・・・」
流石にこの時間、夜中の一時過ぎには誰も出ない。
普通の生活をしている人達ならば寝ている時間帯だ。
だからといって真っ直ぐ110するわけにもいかず
(もしこれがの勘違いだった場合、余りにも自意識過剰過ぎる)
どうしようかと歩みだけ進めている内に足音がリズムを崩していた。早くなっている。
振り返るか振り返らないか。どちらがいいのだろう。
目前に灯りが見え始めそれがコンビニだと知る。
あそこまで大体50メートル。走り出そうか。
どうする、それは刺激するかもしれない。
極力刺激しないようにここはやり過ごしたい―
突如闇を切り裂くような着信音が左手から溢れ出し
心臓が止まるかと思うほど驚いたは液晶画面に視線を送る。
黒澤―
「もしもし―」
「・・・!!」
「あ?おい、?」
「―!!」
突然目の前に突き出てきた大きな両の手、掌。
背に押し付けられた身体。手から落ちた携帯、
そのスピーカーから聞こえていた黒澤の声が遠ざかった。
□
■
□
「本当、あり得ないんだけど」
「ごめんごめん」
「あたし、一週間前に機変したばっかなんだけど、携帯」
「おいが又変えてやるったい」
「いらないわよ、傷がついただけだし」
「そいはまるでと同じやね」
「誰が傷モノよ」
コンビニの駐車場に座り込んだ九里虎は笑っている。
結局、あの時の後をつけていたのはこの九里虎だった。
公園で黒澤とが話しこんでいる辺りから
ずっと(こっそり)様子を伺っていたらしい―何て悪趣味な。
「何したかったのよ・・・」
「ば驚かせようと思ったったい」
「何でよ・・・」
「しっかしまさか、あげん声ば出すとは」
「・・・」
「そこらの家、窓開けよったばい」
おいがまるで痴漢と間違われてさ。
あの時九里虎がに抱きついた際発された彼女の悲鳴は夜空に響き渡り、
ご近所の人々が窓を開け様子を伺い出した。
完全に九里虎は痴漢扱いだった―
「あんたも和もさ、よっぽど暇なのね」
「そ、おい達は暇人たい」
「あたしは違うんだけど」
「ほら、見らんね。又暇人の増えたばい」
九里虎の指差す方に視線を移せばそこには息の上がった黒澤が見える。
もうじき怒り出すだろうと思う―
何を書きたかったのかといえば
多分、九里虎を・・・