脱ぎ捨てられた礼は

何かの途中で目覚める時というのは総じてよくない感触に塗れているわけで、
だからγは酷く憔悴し切った面持ちのまま薄暗い室内を見つめる。


窓の無いこんな部屋でうっかり寝入ってしまったからこその夢だ。よくない。
そういえばここ最近連日のようにあの夢を見てしまい気持ちばかりが重く沈んでいる。
何故だろうと考えても答えは見つからず、
だからといって夢の内容さえも曖昧にしか覚えていないわけだ。
それでも僅かな場面だけは克明に幾度も繰り返される。
それから逃げるように目覚め、そうして安堵を。


下らない、馬鹿馬鹿しい。頭の中では分かっているのだ。
それでも夢というやつはどうやらγを離さないらしい。
現実の中ではまるきり隔離されているからだろうと思い煙草に火をつける。
僅かだが指先が震えていた。


夢の中でγは幼い。自分でも余り覚えていない頃の姿で登場する。
記憶が定かではない為想像の中で造り上げているのいだろう、そう思えた。
まあ、それは兎も角幼いγは夢の中でぼんやりと大人達を見ているのだ。
長い腕が、大きな掌が自身に向けられそうして目覚める。
頭がかち割れると錯覚しそうな程大きなパイプオルガンの音、恐らくあの場所は教会だ。
ステンドグラス、高すぎる天井。案外年代ものなのかも知れない。


「・・・まだ一時間も経ってないわよ」
「あぁ・・・嫌な夢を見たもんでね」
「何?怖い夢でも見たの?」
「そうさ」


そういえばの隣で寝ていたと思い出す。彼女の声がしたからだ。
そうして道理。故に窓のない部屋で。


「・・・あんた、震えてない?」
「そうかな」
「どうしたのよ」


の腕がγに触れる。
だからといって震えが止まるわけではない。
怪訝そうな眼差しを向けたまま心臓の上に手を重ねられれば
少しだけ安堵したような気持ちになる。
ないよりはマシ、幾らかは。気休め程度だ。


、俺のロザリオは」
「そこ、テーブルの上」
「あぁ」
「どうして外したのよ」


だからそんな夢を見たんじゃないの。
何も知らないはずのが呟く。
決して何人も知らないはずだ。だから驚く必要はない。
ロザリオを外したのはと寝る直前だった。
常に肌身離さず持っているロザリオを何故外したのか。
その理由をに告げる必要はないだろう。聞きたくも無い話のはずだ。


「最近あんまり寝てないんじゃないの」
「年、だからな」
「あたしと寝る時、マリアさんが見てたらまずいの?」
「―何?」
「あんた、いつも外すから」


見られたくないのね。
は言う、そして踏み込む。
許すか許さないか、許せるのか。分からない。


「邪魔になるだろう?」
「そうでもないわよ」
「お前の肌が傷つく」
「・・・へぇ」


脱ぎ捨てられた洗礼はどこへ行くというのか。
γの胸元でロザリオが、マリアが揺れている。
が起き上がり彼女の膝にシーツが落ちた。露な姿のままγに寄り添う。


「だから、あんたはいつも一人じゃないってね」
「どういう意味だ?
「そのマリアさんと一緒にいるんでしょう、あんたはずっと」
「お前以外の女といるのさ、俺は」
「ねぇ、そいつってさぁ」


生きてるの、死んでるの。
言葉を選ばないがそう言えば、
お前だって同じようなものだろうと告げられる。


「あんたの中ではあたしが死んでるって事?」
「お前の中の俺も、生きちゃいないだろう」
「結構生きてるわよ」


そのマリアさんと一緒に。
特に妬くわけでもないはそう言い笑う。
余り笑えなかったγはそのまま水を飲みもう一度寝転んだ。
もうあの夢は見ないのだろうか。
そんな事を思えばの指先がγの胸の上、心臓の部分に重なり少しだけ息を飲んだ。

うおおおお!!
実際問題UPするのを忘れていた