清し、この、お前のしたこと

目を閉じるのが怖いと呟いた の事は覚えていた。
忘れる事は出来ないだろうし、まあ忘れようとも思ってはいない。
一度でも目を離せば消えてしまいそうだと呟く。
そんな事はありえないと言えない分やり切れなかった。
自分でも自分の事はよく分かっていないのだ。


それでも突然違う世界に来てしまったという事実が断言させない。
この世界では目の前で話をしていたはずの人々がキレイな光になり消え去っていくのだ。
何も不思議な事はないと言える。


いつも自分の後を追いかけてきていた の事を考えない時はなかった。
振り返れば絶対にそこにいた に恐らく安堵さえ覚えていたのだろう。
特に構いはせずとも、相手をせずともそのままでいいと思っていた。


「ジェクト」
「!」


そんな がついと姿を見せなくなり丁度三日がたとうとしていた時だ。
振り返れどもそこに はいない。慣れる事はなかった。
それでもあえて の有無を聞く事も出来ず曖昧な気持ちを弄ぶ。
追いかけられる経験をこなせばこなすほど慣れは生じるからだ。


「・・・久々じゃあねぇか」
「淋しかった?」
「いーや」


目を閉じるのが怖ろしかったのは何も だけではないのだ。
それでもその事実を には伝えない。きっと死ぬまで。
がどうなのかは分からないが目を閉じれば思い出す。
それら全てが との思い出なのだから性質が悪い。だから絶対に言わない。
どちらも恐れているのだ。消える事、忘れる事。


「何してたんだ」
「何もしてなかった」
「何だ?」
「なーんにもせずにさぁ、何も考えてなかった」


何れジェクトがいなくなる夢を見たのだ。
前触れもなく消えていく。二度とは会えない。
そうして はジェクトを捜す旅に出るのだ。
まるで前世から結ばれていたとでも言わんばかりに。


「・・・そうか」
「でも又あんたを追いかける事にする」
「・・・」
「消えないでジェクト」
「何だ?」
「お願いだから、消えないで」


あの時の の眼差しばかりを覚えている。こんな姿になった今も。
時折記憶が曖昧になる間隔は依然短くなっている。
じきに の事も忘れてしまうのだろう。
あの後、消えないでと呟いた をどう思っただろう。
そうして何をしただろう。


ああ、そうだ。 はどこに行ってしまったのだろう。







「・・・シン」


崩落する瓦礫の下敷きになる直前でグイと腕を掴まれた。
の独り言を恐らくティーダは聞いていない。
何やってんだよ。
切羽詰った口調でそう吐き出したティーダと
ゆっくりとそんな彼を見上げた は悠々と進行するシンを見つめている。
強い風と共にシンは過ぎ去る。あれを倒すのだ。


「・・・あれが、シン」
「そうよ」
「なぁ 、何で」


何で泣いて。
そこまで呟いたティーダは伸ばしかけた手を止める。
ゆっくりと立ち上がった はやはりどう見ても泣いていて、
それでもその理由が分からない。
声をかけても無視されそうで、それを恐れたティーダは言葉を飲み込む。


「おい、
「ほっといて」
「いいから、来い」


横から口を挟んできたのはアーロンであり、
そんなアーロンは強めに の腕を取り消えていく。
あの二人の間を勘繰るわけではないが余りいい気持ちはしなかった。
それでも泣いている に声をかける事すら出来なかったティーダは後を追えず。
彼女の泣き顔を、涙を見たのも初めてだった。







ジェクトを追いかけ、そうして見つけるまでは何も恐れないと思っていた。
事実何も恐ろしくはなかったし、感情の一部が欠落していたのだろう。
何も思わなかった。それなのに実際シンを目の当たりにした時の慟哭はどうだ。
どうしてこんな事になってしまっているのか、ようやく受け止めた事実は余りに重かった。
震える指先を無理に掴んだ の手、そうしてその上から覆われたアーロンの掌。


「・・・お前が望んだ道だ」
「分かってる」
「泣くな、
「分かってる」
「あいつは、気づいているはずだ」


この世が悲しみだけで構成されているのならば、どうして皆希望を抱くのだろう。
悲しみ以外の成分で構成されているのならば、一体それは何なのか。
分からない。希望があるからこそ悲しむのかも知れない。
既にシンが去った光景を見つめていれば
ユウナが異界送りをしている様子が見え、アーロンの手を握り返した。

久々のジェクト、というかFF]。
楽しい結末にはなりませんよね・・・