01 殺しの国のアリス






クロロが前触れもなく訪ねて来た時点で違和感を覚えるべきだったのだ。
まあものうのうと彼を招き入れたわけではない。
只、帰れと言ったところで叶わないだろうし
(あの笑顔が不気味なのだ)
何かしら策を練ろうとも厭わないだろう。
だからはクロロを快く招き入れたわけだ。


「・・・で、何?」
「近くを通ったもんでな」
「・・・っていうかあんた、どうしたのよ」
「茶でも出してくれないか」
「は?」
「疲れてるんだ」


ゆっくりとソファーに腰を下ろしたクロロはまるで我が家の如く寛ぎ始める。
どうしてこの男は唐突に訪れたのだろうか。
何もないわけがない。


「あんた、一人で来たの?」
「あぁ」
「珍しいわね」
「そうかな」
「・・・頼み事でもあるわけ、あたしに」
「お前に頼む事なんてないよ」


そう言えば同じ言葉を幾度となく交わしているような気がする。
そもそも用件がなければ誰も尋ねては来ない、
それが当然のにとって(確かに毎度用はないと言うが)
用件もなしに訪れたと言うクロロの発言は理解出来ないのだ。


ハンターになり随分月日は経過したように思えるが
実質どのくらい経過したのだろう。
丁度ハンターになり二年目にこの男と遭遇した。


「最近はどうなんだ。仕事の方は」
「何?あんたあたしの親?」
「つんけんした言い方をするな」
「そりゃあ親の顔なんて知らないけどさぁ」


これは本当だ。
嘘の中に時折真実を混ぜれば何が嘘なのか分からなくなる。
だから自身口から吐き出した言葉の
一体何が嘘で何が真実なのかは分かっていない。
大体この男―
クロロも本当の事なんて口にしちゃいないだろう。


「・・・あんた、本当に何しに来たの」
「特に用はない」
「・・・」
「これを飲み終えたら又出て行くさ」
「・・・飲んでないじゃない」
「・・・不味いんだ」


真顔で冗談だよと呟いたクロロを見ながら、
単にからかわれているのだろうと知っている。
あの真っ黒な目がじっとこちらを見据えている。
クロロと初めて会ったあの日、
彼は血生臭かったしも血生臭かった。


突如出現した強大なオーラを感じ
思わず数メートル下の川へ身を投げたはゆっくりと見上げる。
そのオーラを。
パラパラと小石が落ち、それを辿るまでもなく
禍々しい男が真っ黒な目でこちらを見据えていた。


「あんたあたしの事殺したいんでしょう、クロロ」
「・・・いいや」
「最初あたしを見た時から、あんたの目ってまったく変わらない」
「そんな昔の話、覚えちゃいないよ。俺は」


力なくだろうか。分からない、気のせいかも知れない。
兎も角クロロは一気に茶を飲み干し立ち上がる。
そうしてそのまま一度も振り向かず出て行った。
また来ると一言呟き。









丁度クロロが出て行って一時間が経過した頃だ。
ドアの前で気配がズンと膨らみ視線を合わせた瞬間
背後のソファーにヒソカが座っていた。
これに関しては毎度の事なのでは驚かずとも嫌な思いはする。


「・・・何?」
「来てたでしょ」
「お邪魔しますくらい言えないの、あんた」
「自分の家に入る時にお邪魔しますなんて言わないよねぇ」
「あたしの家よ」
「フフ」
「あんたもあたしを殺しに来たの?ヒソカ」


唐突にそう言えばクロロとは違い大袈裟に溜息を吐き出したヒソカは、
まるでそんな価値等ないとでも言いたげだった。
そりゃそうよね、口にせずともそう思えば
こちらを見ている予定のヒソカが早く本性を現せと言っているようで、
はそれも無視をした。


(本性なんて見せたら最後、厄介事は御免だわ)

ヒソカの予定がクロロに。