穏やかな午後の庭で

退屈そうに見えるのは自分が相手だからだと知っていた。
知っていた、だけれどその事実を覆す事も出来ず
彼女の興味を向けさせる事さえ出来なかったわけだ。
だから心は伝えなかった。一切。何一つだ。
伝える事が出来なかったのだ、怖ろしくて。

まあ、親戚の少し年上の女。育ちも家柄も良く容姿端麗。
そんな彼女が初恋の相手だった、なんてそれこそよくある話のようで
嫌に恥ずかしく人には言えなかった(そもそも言える相手なんていないのだけれど)

既に大学へ進学していた彼女―
は留学先から一時帰国の途中キッド宅に立ち寄ったらしい。
親戚中でも最も優秀な彼女を父親達は手厚く歓迎し(激務の彼が、だ)
で臆する事なく応える。
堂に入った彼女の姿さえ眩しかった。


「大きくなっちゃって」
「あんたも、キレイになったね」
「何?褒めてるの、それ」
「あぁ」


テラスで日差しを浴びていたの向かいに座り彼女を見つめる。
留学前に見た知的な眼差しは未だまったく変わらずキッドを見た。


「聞いたわよ、アメフト」
「は」
「見に行っちゃおうかなぁ。どうせ暇だし」
「そりゃぁ・・・」


困ったな。
唐突な彼女の言葉に思わず苦笑いを浮かべたキッドは
テンガロンハットを目深に被りなおす。
眼差しを隠す癖はまだなおらない。
面と向かいと目を合わせた事もない、未だに。


「キッド。大きくなったねぇ」
「・・・」


少しだけ強い風が通り過ぎの髪を揺らす。
思わず頬に触れたく腕を伸ばしかけた。
が微かに笑ったような気がした。











突如目の前に現れた彼女は光って見えた。
何よりも、こんな自分よりも。
心に幾つも重ね重ね、憧れを恋だ、愛だと錯覚する。
錯覚なのか何なのか―今でもはっきりとは分からない。
相手にされないと分かっていたから憧れ続けたのだ。

だから現に今がベッドで寝ている状況下何も考える事が出来ないでいる。
憧れは絶えた、死んでしまったのだ。もう蘇らない。
だったら、何が残るのだろう。
手を伸ばしてしまった。もう掴まえられるものはない。
はそこにいるというのに。あれはだ。だ。

ぼんやりと目を開けシャワーの出る瞬間を見ている。
思い出も何もかも全て消え失せた。
何故だか酷く哀しくて涙さえ零れそうになり目を閉じる。
最後の砦を越えてしまった浅はかさに嫌悪さえ覚えた。


「・・・なぁ、


十二分に長いシャワータイムからの帰還を果たしたキッドを待っていたのは
温もりさえ消え失せていたベッド只一つ。
も同じ気持ちだと分かってその上で酷い後悔を募らせる。




何故だか後悔話になってしまった。