久留守

うるせぇと呟き思いがけず振り上げた腕を止める。
何をしてるんだと思えたからだ。
やれやれとわざとらしく首を振り背を向けた。
これ以上話を、口を開きたくない為のジェスチャー。
火種の消えてしまった囲炉裏を鉄の棒で突く。


昼の間にもいできた果実を齧る、当たり外れの多い実だった。
何でもかんでもすぐ口にして、
そう呟いたは半ば腐った実を外に投げている。
食い物を粗末にする女だぜ、そう呟いた。
まったく合わない二人なのだ、合い通じるものが何一つとしてない。
そんな事は最初から分かっていた。


何かが気に入らずフラリと外へ出たところで何かを斬り付けるだけだ。
先日もそうで、しかもどうやら相手が悪かったらしく
(やけに粘着質な輩だった)フウがさらわれる始末。
その件についてジンとから散々絞られたのだ。


「あんたそれ気に入ってるの?」
「あん?」
「鞘のトコに巻いてるヤツ」


だらしなく髪を結わえたがユラリと近づいた。
ジンとフウが買い物に出かけているこの、ほんの僅かな時間だ。
僅かな隙間のような時間。その時間には接近する。
いや、ムゲンも。


「昨日のヤツの、置き土産」
「土産、じゃないでしょ」
「どの道、取りにゃ来ねぇだろ」


同じじゃねぇか。
そう言い笑った。


「あんたがそんな事するから、昨日だって―」
「手前は愉しんでたじゃねぇか」


女伊達らに、そう称されるのを酷く嫌う事を知っている。
それでもそう言わざるをえない。
皆ムゲンの仕業を厳しく問い詰めるがその実、
一番狂っているのはだと思っている。
少なくともムゲンはそう思っている。
手前も俺も、大して変わりゃしねぇじゃねーか。


「なーんか、キラキラしてていいじゃねぇか」
「いいだろうけど、誤解されるわよ」
「何がだよ」
「それ、クルスよ」


何だよそれ。
そう問いかけたムゲンを見たはもう一つ腐った実を投げ捨てる。
しつこく教えろとせがむムゲンの後頭部に命中、勢いよく彼が振り向いた。

久々のムゲン。
相変わらずジンとフウは空気化。