隠密

相手が女だという点で確かに甘く見ていた。甘い目に遭おうと下心を見せた。
丁度二日前から自分達をつけていた女だ、
最初は誰を狙っているのかと泳がせてはいたもののどうやら自分でもジンでもないらしい。
それに気づき遠慮もなくなった。


どうやらジンの野朗は女相手という事で毒気を殺がれたらしく
(相手がかかってくるまで手は出さないらしい)
そんな答えを頂けばムゲンが手を出さないわけにもいかない。
なら俺が頂くぜ。そう呟き宿を出た。
丁度暇を持て余していた最中だったのだ。
まんまと罠に嵌ったと言わざるを得ない。互いに。


ぬっと腕を出しまずは首を掴まえた。細い首だった。
どうせ女もこちらを舐めてかかっているのだ。だから掴まえる事が出来た。
そのまま地面に投げ捨て顔を隠していた布を取る。
黒目がちな眼差しが忙しそうにこちらを捕らえる。薄く赤い唇が目に入った。


「手前は何だ?」
「・・・」
「だんまりか?まぁ、それもいいけどな」


目的は一つ。


「下衆な男ね」
「そりゃ、褒めてんのか」
「頭も目出度いのね」


女の足がムゲンの腹を蹴ろうと風を切った。
空いた手で掴み押しのけ身体を入れる。
女の首にはケロイド状に固まった刻印があった。
―隠密か。ふとそう思い辺りを伺う。気配はない。
まず着ているものを全て剥けば武器は見つかるだろう。
若しくは膣か、それも分かる。問題はない。


「なぁーに、狙ってやがる」
「あんたじゃないわ」
「そりゃ、残念」


息が上がっている。分かっていた。
性欲の上昇、血管の波打つ音が聞こえそうだ。
女の肌は月明かりのせいだろうか、嫌に青白く光る。
酷く暴れるのならば腱くらい切りつけるつもりだったが女はまったく動かない。
目だけがぼんやりとこちらを見ているのかと思えばそうでもなく、
まん丸な月ばかりを見ているようだ。容易いが詰まらない。


「諦めてんのか」
「諦める程の事でもないわ」
「あ?」
「犯してるとでも思ってるわけ、あんた」


笑わせるわね。


「んだよ、鼻っからヤル気だったのか?」
「どうでもいいから」


早く終わらせてくれないかしら。
まったく反応しない死体のような女とやった。
視覚、聴覚からの快感は一切なく、単に触覚からの快感のみを得る。
当然の、獣と同列のやり方に不満はなかったが得る快感は半減だ。
それでもこれ以外のやり方なんてほぼ知らない。余り遭遇しない。
ああ、だから詰まらないのか。
そうして詰まらないから、この女にしては楽なのだろう。
まだ生きているだけマシだと思えよ。


「残念な女だぜ」


事を済ませた男はそう呟き離れていく。
その言葉だけが嫌に脳裏にこびり付き、唯一腹が立った。
立ち上がり背を伸ばす。泥のついた頬を拭い定位置へ戻る。
そういえばあの男は何故自分を殺さなかったのか、
ようやくその考えまで至り居たたまれなくなる。
私はどちらに殺されるのだろう。




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打って変わって酷い雨の日だ。轟々と鳴り降り注ぐ雨は視界さえ奪った。
それなのに男は姿を現しの前にいる。


「あんたの好きな事をしましょう」
「・・・あぁ」
「この前よりも随分愉しいはずよ」
「そりゃあ、期待しちまうぜ」


着ているもの全てに水分が浸透し不快感が増す。
何れにしてもどちらかが悲劇に見舞われるのだ。
こちらは公儀隠密、己の信条は皆無、指令を全うするためだけの生き物。
淘汰されるべきこの男に笑顔の一つくらい見せても構わないだろう。
二人以外に知れるはずはない。


「いい顔じゃねぇか」


やっぱ女は笑ってる方がいいな。
刀さえ冒す雨粒を勢い良く払い落とす。
近くで雷鳴が轟いていた。

あっ、ヤベェ、名前変換するとこねえ!
と思いました。無理矢理つけはしたものの。
珍しくシリアス系のムゲン。