04 美しい人魚姫は老いぼれた魔女を殺す

ぎゅっと強く手を握り震えを止めた。
何も怖ろしいものはないはずなのに
これは武者震いというやつなのだろうか。
以前ならまだしも今に怖ろしいもの等ないはずだ、
怖れられる事はあっても。


試験に受かり数年、怖ろしさを消す為だけに生きてきた。
動機は復讐それだけで、生きる理由もすっかりそれ色に染まってしまった。
それなのにどうしてこうも小さな身体が震えているのだろう。
奥歯を強く噛み締め頭の中を無にする。


時刻はもうじき0時になる。
目前に聳える屋敷の住人全員を皆殺しにするのだ。
この屋敷さえなくなってしまえばこの世に怖ろしいもの等なくなってしまう。
力量は完全にこちらが上回っているというのに身体の震えが止まらない。
これを乗り切らないと生きていける気がしないというのに。


「―――――震えてるね」
「!」


唐突に声をかけられ必要以上に驚いた。
そんなの反応を受け酷く愉しそうに笑った。


「・・・何してるのヒソカ」
「いや、確か今日だったなぁと思ってね。見物しに来たのさ」
「悪趣味ね。冗談じゃないわ」
「だって愉しそうじゃない、最後まで見せてもらうよ」


予定の時刻まで後五分。
ヒソカがこちらに寄って来る。
笑えないと思った、ヒソカが来た瞬間に
震えが止まった事実が何より笑えない。
完全にリラックスしてしまった己が笑えない。


「アレが終わったら、いよいよだ」
「あたしと殺しあうって話、あれ本気だったの?」
「当然じゃないか」
「・・・あたしは嫌よ」
「どうして」
「あんたの事、好きだから」
「・・・」


言い退け笑う。
ここまで腹の内を晒してしまえば
このまま自分が死んでしまうのではないかと思う。
まあそれでも構わないか。
あの屋敷で死ぬかヒソカとやりあって死ぬか、違いはたったそれだけ。


幾ら好きでも殺されたくはないとも思う。
あの屋敷にはの過去が轟々と渦巻いているのだし、
その重みに勝てるかどうかは分からないのだ。
幾ら己の力が上回っていようと。


「それは困ったね」
「そうでしょう?」
「同じ気持ちだ」
「そうなの?」


だからボクは殺したいんだけど。
そう呟き、あそこの用件を終わらせてしまえば
好きではなくなるかもねと続ける。
過去に怯え縛られ、もがき苦しむを見ているのが好きだと。


「あんたって、本当・・・」
「知ってたでしょ」
「あたし、男運ないのよね。昔っから」


後一分。


「あんたより好きな男見つけないと」
「その前にボクが殺すよ」
「あたしの用事が終わったら、好きじゃなくなるんでしょう?」


だったらいいじゃない。
あの屋敷に入り用件を済ませた後の事を考える。
ヒソカに捕まる事なく逃げ出せばこの男は自分を捜し続けるだろう。
それが生きていく糧になるかも知れない、追われているという事実が。


明日になんて興味はないし、何が起ころうと気にもならない。
それでもどうやらの言葉に
不満気なヒソカは自分もついて行くと聞かない。
好きにすればいいと笑ったは背伸びし立ち上がった。


「あそこのババアを殺さないと」
「隣で見てるよ」
「あんた、横取りしないでよね」
「興味があるのはだけ。他の奴なんてどうでもいいね」
「嘘吐きね」
「それは、も同じ」


時刻は0時。守衛を殺し門を開けた。




やっぱり全巻集めます。五月中に。
いつ頃ヒソカは出て来るんだろうか…
というか幻影旅団で話を書くと思うよ、全巻集めたら。