詰まらない男だと言われたのは初めてで、
正直な部分大層驚いた記憶がある。
会話の内容にしろ気の使い方にしろ自身の頭の良さ、その程度にしろ―
全て己の意識下でしかないけれども。
賢いと自負している。それだから驚いた。
まあ新鮮ではあったし、今思えばそういう手だったのかも知れない。
いやそれでもがそんな手を使う必要があるのかどうか、それは分からない。
何れにしろ驚いた。それが大体三年程前の出来事だ。
基本的にとは余り顔を合わせない。
彼女は飽きる事を異常に怖れているし、それに暇がない。
同じ地に長い間滞在する事もない。
どこかに隠れ家でも作ろうか。
クロロがそう呟いたのも昔の話、二年程前の事。
荒れ果てた海の側に佇む古城だ。
その辺りの地主さえ手放した曰く付きの物件。
城主が使用人達を皆殺しにし喰ったと言われているらしい。
真意の程は分からないが。
兎も角そこを手に入れ(方法はどうか問わないで欲しい)人が住める状態に手を入れた。
近代化から逃げる事の出来ないの為に小さなテレビを設置し、
古城にはまったく似つかわしくない一室を作り上げる。
都会のアパートメント、それの一室宜しく。
大きなソファーとハンモック、壁と同色の冷蔵庫。
たまに訪れれば生活した跡が目に見え、がいたのだろうと予想がつく。
なのにどうしてタイミングが合わないのか。
旅団の人間さえもこの場所は知らず、唯一知っているのはだけだというのに。
何を狙って一緒にいるのよ。
そう言いは笑う。
馬鹿馬鹿しいとは分かっているのに一緒にいたい、それも下心なしに。
この感情を愛だと知っている。分かっていた。信じられずに。
こうも淡いものをまさか自分が抱くなんて。
太陽が北から昇る可能性の方が高い。しかも、こんなに長い間。
今回ここへ訪れた理由は一月前にを見かけたからだ。
珍しくお堅いスーツに身を包みメガネなんてもので顔を隠す。
髪を纏めているからかな。そんな事を考えた。
まあその時はクロロも大きめの仕事をしている最中だったから、
そう長い間見ているわけにもいかず(もすぐに消えた)
それきり。それきりだ。
「…血の跡か」
ハンモックにこびり付いた茶色の染みを見つめ呟く。
これは多分の血だ。その時にふと、漠然と気づく。物凄い量の不安に。
会わずともが生きていれば何れかのタイミングで
顔を合わせる事になるだろうと思っていた。
が生きている事を信じて疑わなかったのだ。
何故か、不思議に。
何故ロマンチストな妄想に浸っていたのか。
偶然に出会うなんて妄想に。
そりゃあ幾度も陽が落ち昇るわけだと笑った。
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「おい、。お前大丈夫かよ」
「…さぁ。見ての通りじゃないかしら」
「血、止まったのか?」
「頭、フラフラする」
突如こみ上げた吐き気を堪えきれず唾を吐き出す。横たわったまま。
こんなあばら家が最後の場所なのかと思えば情けなく笑えた。
わき腹から染み出る血は一向に止まる気配がないし、
脳髄が緩く揺れ動く感覚も否めない。
貧血が起きているという事はだ。思うに短い人生だった。
年齢から考えればそう短くもないのだけれど余りにスピードが速すぎた。
振り返る間も無いほどに。走馬灯さえも数秒間で終わる。
「…終わりそう?」
「おい、!?」
「ちゃぁんと、終わらせてね」
請け負った仕事は最後まで責任を持って終わらせる。
それが迷惑なこの生き方を全うし死に行くものの定めだと知っている。
誰かとチームを組む事はなかったが、
時折仕事の内容として誰かと組む事もある。
今回はたまたまこの男(実質名前も知らない)と四度目のチームを組んだ。
そのまま死ぬ事になるなんて笑える話だ。
何かがのわき腹を貫き終わり。
「おい、おい!!目ェ瞑るんじゃねェぞ!!」
「…ん」
「もうちょっとで終わるんだ、おい、!!」
あの古城の側でやり合いになり一旦見慣れた部屋に逃げ込んだ。
そうしてすぐに思い返す。こんな所を見つかるわけにはいかないと。
思い出だけは汚してはならない。唯一だからだ。
「!?」
男の声ばかりが響く。全身から力が抜け目も閉じた。
いい夢が見れそうだと思う。生まれて初めて。
二度と目覚める事はなくても――――――
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余りに白い景色を目の当たりにした。
ここが俗に言う天国なのかと思い、
それと同時に天国になんか行ける道理がないと思った。
そもそも天国も地獄も、悪魔もカミサマも信じてはいなかったのだ。
どこにも行き場はない。酷く気だるく寝返りをつく事さえ出来ない。
視線を泳がせれば滲む視界に人が揺れた。
いや、揺れているのはこちらの視界か。
「…目が覚めたのか」
「誰」
「」
大きな掌がの頬を撫でた。
この感触は知っているような気がする。
気づけば指先一つさえ動かす事が出来ないと知った。
死んでいるも同然だ。男の顔がぐんと近づき眼をじっと見つめた。
クロロ。クロロの目がそこにはあった。
髪を下ろしている。よく妙に若返るものだと笑ったものだ。
「何、してるのよ」
「お前こそ」
「久々ね」
「まったくだ」
掴まえ閉じ込めどこにも行かせないようにする事も出来たのだ。
それをしなかったのは彼女の自由を欲していたから。
ありのままの彼女でなくてはいけないと妄信的に思っていた。
何故だろうか。そんな事、考えたところで。
「何してるのよ」
「寄ったんだ、あそこに」
「そうなの」
「それだけだ」
「…」
嘘吐きね。
そう言えばクロロがふっと笑った。顔を僅かに背け。
これまでならばそのままだったはずなのに
今回に限ってそんなクロロが動かない右手をそっと掴むから、
やはり自分はこのまま死んでしまうのではないかと思えた。
久々の更新というかクロロかよ、みたいな。
本編では一向にヒソカ、というか旅団が出ませんね。
むしろお前、いつ再開するんだ、という…
本当は題名の如く主人公を死なせるつもりだったんですが
それはまずいかなあと。いう事で。