傀儡(平安以前の遊女、又は操り人形)

舌打ちをし目を閉じた。
目の前に転がった男の抜け殻の周りには
多量の血液が飛び散っているのだし完全に死んでいる。
が殺したからだ。
金目のものを全て奪い気が乗らなかったから殺した。
思ったほど金を持ち合わせていなかった事が問題なわけだ。


「・・・ねぇ」


血塗れの両手が徐々に乾きだす。


「ねぇ、ムゲン」


言葉尻がきつくなっている事に気づいている。
わざとだ。 もムゲンも。
互いに互いを視界にいれないよう過ごし
どれくらいの歳月が経過したのだろう。


金と食い物をせがむ以外口を開かないムゲンは襖一枚隔てた先にいる。
ゆらゆらと大きな影が壁を侵食しているのだ。動く。
ムゲンが身を起こしたのだろう。今一度名を呼ぶ。


「・・・何だよ」
「ねぇムゲン、」


こんな事をしててあたしはどうなるのかしら。
そう呟いた に気の利いた言葉一つ思いつかないムゲンは
ゆっくりと襖を開ける。
仄暗い朱に彩られたムゲンの顔が徐々に、
そうして赤黒さに塗れた の姿が徐に―


「堕ちる」
「―何?」
「俺もお前も、奈落に堕ちるだけじゃねぇの」


嫌なのかよ、それは問うたのだろうか。
共に堕ちたいと言うわけでもない癖に
ムゲンは感触を欲しがり を置いていく。

いつの時代のムゲンなんだという。
地獄よりも奈落。